あたたかい日差しの注ぐ1日でした。例年なら今が一番寒さの厳しい頃なのに、その実感が全然湧いてきません。
朝、東京からお越しになった方のご依頼で、御祖父様の50回忌を勤めました。参列者はお一人だけ。静かでしんみりとした、清々しいお勤めが出来ました。
最近、携帯を時計代わりにしていたので、気がつくと腕時計が全部止まっていました。 30年ほど前の‘自動巻’の時計だけは何とか動くものの、分厚くて重たいので、あまり持ち歩きたくはありません。
とりあえず、よく使っていたものを3つ選び、以前電池交換をしてもらったことのある時計屋さんに持ち込むことにしました。
1つは外国製のブランド物で、以前時計屋さんに持ち込んだら、「メーカーに送らないと電池交換はできない」と言われて持ち帰ったもの。もう一つは登山用で、高度計や気圧・気温・方位などが計れるもので、これも以前メーカー送りと言われました。もう一つは国内メーカーのもので、他の2つが電池交換できなくても、これだけは大丈夫だろうと思えました。
表からはやっているかやってないのかわからないような、間口1間半ほどの朽ちかけのお店の店先に、かろうじて時計屋さんであることがわかる剥げた看板が掛かっていました。
以前、登山用の時計の電池交換を2〜3軒ほどで断られた後、通りがかりに飛び込んでみたら、すんなりやってくれたお店です。
店を入って右側には、以前は眼鏡も扱っていたのでしょう、計測機械などが埃をかぶったままになっていました。左側に作業をする2畳ほどのスペースがあり、そこに無精ひげに包まれた70歳は超えているであろうご主人の顔がありました。 奧には台所のコンロや鍋などが丸見えになって、独り暮らしであることがたやすく想像されました。おそらく調理をしながら店番をしておられるのでしょう。
先に老女の客があり、主人はその接客中。どうやら老女が時計のベルトの修理を頼んだらしいのですが、主人はその修理代を受け取ろうとしないため、客とのやりとりが続いているようでした。
「ワシにはこれ以上できひん。でも、これでいいでしょう?」「はい、お代を」「要りません」「でも、ちょっとでも取ってもらわないと」と、客が千円札を出しましたが、主人は受け取ろうとしません。 ボクが待っているのに気が引けたのか、老女は仕方なしにお金を仕舞い、帰って行きました。
ボクが「電池交換をお願いします」と3つの時計を差し出すと、主人は眼鏡をずらしてその一々を確かめました。案じていた外国ブランド製は難なくパス。登山用を手にしてちょっとためらった感じだったので、「前にやっていただいたことがあるんですが・・・」と言うと、「カシオなら大丈夫です」と引き受けてくれました。もちろん、国内メーカーのものは大丈夫。
登山用だけは時間がかかるというので3つとも預けることにして、連絡先をメモを書こうとしましたが、メモ用紙を探すのに一苦労。別の部屋に行って、ようやく小さなエフを持ってきてくれました。
雑然とした、部品がなくならないのだろうか、ホコリが入らないだろうかと心配になるような作業場。目もかなり近視が強そうな様子。 でも、ユニットごと替えことしか出来ないような今の多くの技術者とは違い、この老店主はいろいろ応用が利いて、足りない部品でも加工して作ってくれそうな感じ。登山用や外国ブランドの電池交換はメーカーが禁じているのかも知れませんが、このご主人にはそんな縛りは及ばないのでしょう。
こういうお店、職人さんがどんどん少なくなっています。職人さんに技術や工夫がなくなっていっている気がします。 このお店も、次に訪ねた時には看板がなくなっているかも知れません。老時計職人さん、頑張ってください。
〜 日向ぼっこするさくら 〜
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2007年1月31日(水)
No.1265
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