3/2版
3月の声を聞いた途端に、光の色が春らしくなったように思えます。
夕方、馬酔木の間の道を歩いていて、傾いた日の光越しに見つけた馬酔木のかわいいこと! おそらく、今まで誰にも気付かれずに咲いて来たのではないでしょうか。馬酔木の幹の交差する、あまり日の当たらないようなところに、ひっそりと咲いていました。光が当たっていなかったら、きっと気が付かなかったと思います。 写真を撮ろうとするのですが、風が強く、花の房が大きく揺れて、なかなかピントが合いません。でも、揺れる度に葉っぱがキラリと光り、ピンクの花が透けて、とってもかわいい! もっと濃いピンクの馬酔木も境内にありますが、ピンク加減が何とも上品で、お気に入りの花となりました! 馬酔木に満足して自坊に向かうと、遠目にも透き通った紅い色が見えました。自坊の前庭の木だったので、それが椿の花であることはすぐにわかりましたが、これまた何とも綺麗。満遍なく光り照らしてしまう昼間の光と違って、偏った夕方の光は芸術的な演出をしてくれます。 ごく普通の椿ですが、藪椿の紅が一番好き。その紅い花に光が差しているのですから、綺麗なことこの上ありません。しかも、花の上には満開の紅梅の花! 「絵に描いたような演出だなぁ」と苦笑しながら、紅梅の下で紅く染まった自分を想像しつつ、景色を堪能しました。
鐘楼周りの水仙は今が盛り。よく咲いてくれました。嬉しくて、先日は早々と御礼肥をあげました。どんどん分球して増えてくれるのが楽しみです。 水仙は、室町時代に中国から渡来したと言われます。梅・蝋梅・山茶花・水仙で「雪中四友」、梅・竹・水仙で「三清」、梅・沈丁花・水仙の「三君」、梅・菊・蝋梅・水仙で「四花」などと珍重され、愛された花です。 雪で折れたのを集めて寺務所に活けてありますが、まるで水仙のブーケ。佳き香りが漂って、とても幸せな気分です。
1月、2月は訪れる人が少なくて、「今日は拝観者が0人でした」という日も数日ありました。ところが、この大涅槃図の公開を待ちかねていたかのように、昨日も今日も50人以上・・・メジャーな拝観寺院からすると、桁違いの少なさですが。 「これを見たくて、待っていたのです」と喜んで来てくださる方や、じっと絵に見入っている人など、本堂の雰囲気も少し春らしくなりました。 涅槃図にはいろいろな語り口があります。北枕、沙羅、猫、弟子など、説明し始めたら切りがありません。描かれている菩薩や人、動物の表情を見ているだけでも、興味が尽きません。 それが涅槃図の‘仕掛け’なのでしょう。皆さんが興味をもってこの絵を見てくださることを切っ掛けに、仏教やお釈迦さまのを説いていこうとするための‘道具’なのだと思います。そのために、こんなにわかりやすく、美しい、大きな絵を描いたのだと思います。 故郷を目指しての最期の旅の途中、ガンジス川の支流の沙羅の林の中で、「私は疲れた。床を作って欲しい」とおっしゃり、「すべては移ろうものである。怠ることなく精進しなさい」と最期の説法をして入滅されたお釈迦さま。決して、超越的な存在ではなく、その教えはこの涅槃図にように親しみやすく、わかりやすいものだと思います。 春の兆しが日々溢れる境内にお越しになって、涅槃図に描かれた弟子の一人になったようなつもりで、仏涅槃図の世界にお入りください。 座 る 余 地 ま た 涅 槃 図 の 中 に あ り 平畑静塔
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