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春休みのためか、境内を訪れる人も子供連れが目立ち、団体客も次第に増えて来ました。都大路も時々渋滞するようになり、手に観光マップを持った人をよく見かけるようになってきました。春の観光シーズン到来の実感がします。 境内もすっかり春めいてきて、つい2週間ほど前とはずいぶん違います。今は季節が駆け足でやってきて、目まぐるしく景色が変わっていく時期です。 赤ん坊が、毎日のように‘できること’が増えていくように、春は毎日新しい発見に溢れています。「椿が咲いた」「枝垂れ桜が見頃になってきた」というように。秋はその逆、‘引き算’です。やがてほとんど動きがなくなって、‘ゼロ’になり、見かけ上は何も動かなくなる冬がやってきます。 皆さんにとって、春はどんな季節でしょう?
京都はさほど広い街ではありませんが、桜の開花の様子を見ていると、場所によってずいぶん気候が違うことがわかります。 気象台は街中にあり、余程あたたかいのでしょう。「まだぜんぜん咲いていないのに」と思いながら鴨川畔を車で走ると、七条あたりはずいぶん咲いていて、四条辺りもチラホラ咲き。逆に、北大路以北や洛西の方では、まったく咲いていなかったりします。真如堂の境内の桜が咲き出すのも、気象台から遅れること3〜4日。それだけ違うのに、「標本木」だけを見て開花宣言をする意味があるのだろうかと、疑問に思えてきます。 今年の真如堂境内の染井吉野の開花宣言は、26日の午後、ボクが個人的に出しました。「縦皮桜」は例年では染井吉野よりも1日ほど早いのですが、今年は26日の午前、枝垂れ桜は例年境内一早く開花して、今年は23日、それぞれ開花しました。 見頃は開花から約1週間後です。枝垂れ桜は満開になる前の29・30日頃が一番の見頃でしょう。満開になると色が褪せ、白々としてきてしまいますので。 全体として、今年の桜の見頃は、4月3日頃ではないでしょうか。小学校の入学式に桜はほとんど散っていそうですね。 世 の 中 は 三 日 見 ぬ 間 に 桜 か な 大島蓼太
今までは‘野良のプライド’か、触ることも許さなかったのが、最近は極めて親和的。春ののどかな景色と猫は、よくマッチしています。 境内にいると、いろいろな人と出会います。 久しぶりに会ったオランダ人の友人と話していたら、風呂敷をマントにした男の子がボクたちの前を掛け去っていきました。 「最近、あんな格好をして遊んでいる子も珍しいねぇ。ボクは『月光仮面』などの真似をして、風呂敷を背中に羽織って自転車に乗ったよ」と話したら、彼は「ボクは『怪傑ゾロ』の真似をして、あんな格好をしたなぁ」と言いました。『怪傑ゾロ』、何て懐かしい響き。 でも、目前の子供は『月光仮面』も『怪傑ゾロ』も知っているはずがありません。「あれは‘あんぱんマント’じゃないかなぁ」ということに落ち着きました。 そんな暢気な話が出来るのも、春ならではです。
あたたかくなる前から咲いていた、馬酔木や 桜は申し上げるまでもなく、これからがピーク。 本堂前の「花の木」も、今、真っ赤な花を咲かせています。通りがかる人も、「あれは何だろう? 新芽かなぁ」と不思議そうに見上げておられます。日が当たると、その紅さは一層際立ち、とりわけ夕焼けの頃は幻想的でさえあることがあります。 自坊では、 昨年の10月からずっと咲き続けていた十月桜ですが、3月初旬に、花数が急に減り、「そろそろ終わりかなぁ」と思っていたのが、ここ数日で一気にたくさんの花を咲かせるようになりました。
目を地面に転じると、いつの間にか 「あー、春が来たんだなぁ」と思わせてくれるのが、 今年はこの花の開花に気が付く前に、他の花がたくさん咲いていました。「急に春が来て、何もかもが一度に咲き出した」というのが、今春の特色かも知れません。 春になって万物が動き始めると、「春が来たから、何か始めないといけない」と焦る人がたくさんおられます。草木は子孫を残すために万を持して春を持っていたのですが、人には春でなくてもチャンスはやってきます。何も焦る必要はありません。訪れた春の中にゆったり身を置いて、のんびり行く末を考える。それは人間に与えられた特権かも知れません。 ゆっくりと春をお楽しみください。 吾 も 春 の 野 に 下 り 立 て ば 紫 に 星野立子 |