苦  沙  彌
 (竹内純照)
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            元旦朝の境内      マウスを載せれば写真が変わります
 晴天に恵まれ、凜と冷え込んだ今年の最初の朝となりました。新しき年を、皆さまいかがお迎えでしょうか?
 まだ少し薄暗いうちからは、ごくわずかな人が参詣や墓参に来られるだけの静かな元旦の早朝。11時頃になると、お雑煮を食べた家族連れの方々がようやく三々五々墓参にお越しになって、3時頃までは人や車の往来が普段よりもずいぶん多くなりました。そして夕方になると、ご家庭でゆっくり過ごされるのでしょうか、潮が引いたように人の姿が消えて、境内はまた静けさを取り戻していきました。
 お正月の墓参は家族連れの方が多いので、1団体の人数も多め。家族3代で10人以上などという場合もあり、お正月は皆さんにお抹茶の接待をしている自坊の玄関は、時として人で溢れて入りきれなくなりました。
 晴れ着を着てくる人はすっかり減ってしまいましたが、やはりお正月ならではの華やかな雰囲気が漂っています。嫁いだ方が子供連れで帰省されていたり、正月休みを利用して遠方の方が来られることも少なくありません。


          除夜の鐘を撞く人たち     マウスを載せれば写真が変わります
 大晦日の夜は、ずいぶん冷え込みました。
 厳寒の中、境内の鐘楼では11時45分頃から除夜の鐘の行事が執り行われました。
 一山の僧衆が集まって般若心経の読経をした後、まず真如堂の貫主が最初の第1打を撞き、続いて僧衆たちが順番に撞いていきました。その後は、鐘をつきに来られた方々に4〜5人で1打ずつ撞いていただき、最後はまた僧衆が撞いて、1時半前頃に108つを撞き終えました。
 撞きに来られた方は500人ほどで、赤ちゃんから80才ぐらいのお年寄りまでと年令幅は広く、また留学生など外国人の方もかなり多くて、いろいろな言葉が飛び交っていました。
 かがり火で照らされた境内には、鐘楼から本堂前の白砂のあたりまで順番を待つ列が続いていました。長い間お待ちいただいたのでしょう、鐘楼に着いた途端、「やっとここまで来たぁー」とため息混じりに言っている方もおられました。寒さが地面から足の裏を伝って全身に確実に回っていく中、待っていただくのは苦行だったに違いありません。恋人同士ならいざ知らず・・・。
 ボクたちとて寒いのは同じこと。カイロを背中に張ったり、衣の下に何枚も着込んで防御していましたが、頭が寒いのはどうしようもありません。頭が痛くなるような寒さを、今年初めて、久々に味わいました。
 皆さんに鐘を撞いていただくために、ボクたち僧侶もいろいろな業務を分担をしました。鐘の数を数える役、撞く人をグループ化する役、鐘楼内の誘導をする役、鐘を撞く撞木の綱を制して撞くタイミングを指示する役、茶所で薬湯の接待をする役、総監督などに分かれて、進行役〜お世話係を勤めました。
 ボクは成り行きで「撞く人をグループ化する役」に。撞きに来られる方は、1人の方もあれば、カップルや家族連れ、大人数の友達同士という場合もあります。同役は、その方々を4〜5人組になるように、たとえば3人家族の人とカップルを組み合わせたりするのを司りました。
        鐘楼へ続く人の列 / かがり火に紅く染まる鐘楼    マウスを載せれば写真が変わります
 ここ数年で、皆さんが持ってこられるカメラはすっかりデジカメに入れ替わりました。「お願いできますか?」とシャッターを押す役を頼まれて、撞かれる瞬間を激写! 私も、私もと次々と頼まれて、まるで除夜の鐘の専属カメラマン。かがり火が照らし出すだけの暗い中、液晶では‘気配’しか確認できませんでしたので、ほとんど勘が頼りの撮影でした。半分以上はちゃんと写っているでしょう。
 「鐘を撞いてもらい、写真も撮ってあげて、お薬湯の接待もある。こんなサービスのいいお寺はなかなかないなぁ」と心の中で自負をしていました。
 釣り鐘は宝暦9年(1759)の造営で、重さは約3.1トン。鐘の真下に立っていると、何となく恐怖を感じます。
 写真をご覧いただくと内側に模様のようなものが見えます。これは鐘を作るときに寄付をしてくださった方々の名前を彫ったものです。フラッシュのお陰で、昼間よりもよりクッキリと見ることができます。
 鐘も長い間かけて何万回も撞いていると、金属疲労を起こして鳴りが悪くなると聞きます。見るからに、力まかせに撞こうと意気がっている若い衆には、「力だけで撞いたら音は悪いよ。バックスイングした撞木の反動で自然に撞くのが一番いい音だからね」と、鐘のためを思って撞き方を指導。「はい、わかりました」と聞き入れる最近の若者は、とても素直だと思いました。
          鐘楼夜景 / 元旦の夜明けを待つ星空      マウスを載せれば写真が変わります
 鐘楼が人垣に包まれている間はよかったのですが、100打目も近くなり、撞き終わった人が帰って閑散としてくると、寒さがますます厳しくなってきました。
 すべてが終わって、かがり火を消そうとバケツを見たら、氷が張っていました。改めて、寒さが厳しかったことを思い知らされました。
 見上げたら、素晴らしい星空! 京都でこんなに綺麗に星が見えるのは滅多にないこと。昼間の強風が澱んだ空気を吹き飛ばしてくれたのでしょう。
 一瞬寒さを忘れた坊主頭の数人は、「100万都市とは思えない星空やねぇ」などを感嘆しながら、しばらく空を見上げていました。新しい年に向かっての素晴らしいプレゼントのように、ボクには思えました。
 来る2008年が皆さまにとって幸多き年となりますように・・・・・。





       星   屑   と   云   ふ   元   日   の   こ   は   れ   も   の        中林美恵子