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            正面参道の名残の紅葉      マウスを載せれば写真が変わります
 時雨れそうに曇ったり青空が広がったりの、はっきりしないお天気。晴れてきたから写真を撮ろうと境内に出たら曇ってきて、仕方がないから帰ろうとしたら晴れてきて、お天気に翻弄されているような1日でした。京都の冬らしいお天気かも知れません。
 紅葉見物の人も減って、境内は次第に落ち着きを取り戻してきました。
 境内の紅葉は終盤。日さえ照ればとても美しい景色が見られることもあり、枯葉を踏みしめながらゆっくり散策するには、ちょうどいい頃となりました。
 紅葉の盛りの頃はもちろん美しいには違いありませんが、人が多すぎて境内は雑踏と化してしまい、心慌ただしい紅葉見物となってしまいます。それに比べて今の季節は、木々と直接語り合えるような静けさが味わえます。「もう紅葉は見られないだろうなぁ」と諦めてお越しになった方には、予期せぬ景色のプレゼントがあるかも知れません。
 ボクは今の季節の名残の紅葉が好きです。


         紅葉越しの塔 / ほとんど落葉した塔東側     マウスを載せれば写真が変わります
 今、境内の多くのもみじには、枯れてカラカラに乾いた葉がいっぱいついています。また種がビッシリと付いている木もたくさんあります。遠目には紅葉しているように見えないこともありませんが、近くに寄ってみると明らかに枯れていることがわかり、葉を触ってみればカサコソと音を立てます。
 今年の紅葉は、近年紅葉が遅いのに輪を掛けて遅れ、ようやく11月20日を過ぎて少し色付いてきたかと思ったら、25日を過ぎて少し綺麗になり、今月に入るやいなや一気に散り出しました。いま振り返ってみると、境内全体でのピークは11月26〜28日頃ではなかったでしょうか。
 ピークといっても、綺麗な色にはなりきれないまま濁っていたり、種がいっぱい付いてスッキリと赤く見えない木が大半でしたが、それでも、訪れた多くの人を楽しませてくれたと思います。「わぁー、きれい!」と誉めてもらったもみじたちも、本望だったでしょう。

             吉祥院前の紅葉       マウスを載せれば写真が変わります
 今日、まだ紅葉が綺麗なのは吉祥院前のもみじと銀杏。
 もみじには、まだたくさん赤やオレンジの葉が付いています。銀杏も半分ほどの葉が残っています。地面には赤や黄色の葉が積もっていて、木の上も木の下も楽しめます。
 境内の紅葉のことをよく知っているタクシーの運転手さんは、総門内の駐車場に車を止めた後、正面参道を上がらずに、吉祥院前の参道にお客さんを案内されています。
 その説明を聞いてると、自分がこんなに美しくしたと言わんばかりに自慢げに説明をする運転手さんが多く、おかしくなってきます。
 この場所は日の光の関係で午後がとりわけ美しく、多くの人がカメラを向けたり携帯電話をかざしておられます。ここに立っていると、「シャッターを押していただけますか?」とよく頼まれます。今の境内一の紅葉ポイントです。

       本堂裏の敷き紅葉 / 本堂裏 萬霊堂越しの紅葉    マウスを載せれば写真が変わります
 いつも‘有終の美’を飾ってくれる本堂の裏の紅葉ですが、今年は見せ場のないままに終わっていこうとしています。
 大半の葉が落ちて木の下一面が赤くなっていますが、落ちている葉はすべて乾いてカサカサしたもので、色もよくありません。美しい敷き紅葉にはみずみずしい落ち葉が必要ですが、今年はまったく見られないままでした。
 去年の今頃、今年同様あまり美しくはない紅葉と敷き紅葉の中で、映画『愛の流刑地』の撮影が行われました。「こんな不出来な紅葉の中で撮影して、どうするのだろう」と思っていましたが、テレビで放送された映画ではとても綺麗に見えました。‘着色’したのでしょう。
 そういえば、数年前にJR東海の「そうだ 京都、行こう。」で取り上げられた時に撮影された紅葉(前年に撮影)も、‘着色’されていました。雑誌に載っている写真などは、ほとんど‘着色’されているように思います。
 ‘着色’などしなくても、本当に息を呑むように美しい紅葉が見られる年もあるのですが、もうここ5年ほどはそんな光景に出会っていません。
 温暖化が進む一方の中、本当に美しい紅葉が見られるのはいつになるのでしょう。

                 冬枯れ近し         マウスを載せれば写真が変わります
 境内のもみじの中には、早々とすべての葉を落としている木もあり、落ち葉掃除も佳境に入ってきました。
 紅葉を見に来る人の中には、「落ち葉をそのままにしておいて欲しい」という方もあるとか。そのお気持ちはよくわかります。落ち葉はとても風情に富んで‘饒舌’ですもの。
 毎日毎日落ちてくる落ち葉。人が来られなくなってから掃除を始めていたのでは、年内に境内全域の落ち葉を片付けることはできません。落ち葉は一度にすべて落ち尽くすのではありませんから、一所を掃除した後、他の場所を掃除している間に、先に掃除したところがまた落ち葉だらけになります。これから2週間ほどの間、境内を何周かして、ようやく落ち葉を掃除し終えることができるのです。
 京都市の条例などで落ち葉を燃やすことも出来ず、積んで腐らせる場所も少ないので、その処理は大変です。落ち葉の中に煙草の吸い殻を見つけて、ヒヤッとさせられることもあります。紅葉の‘後始末’は皆さんが思っておられる以上に大変です。
 紅葉期は地面がたくさんの人に踏み付けられ、その表面がテカテカ光るほどにもなります。もちろん、苔もズタズタに傷みます。色付いた葉を綺麗だからと取るばかりでなく、枝ごとを折って持ち帰る人さえいて、境内の木々たちにとってこの時期は受難の時でもあります。
 8・9日の今年の紅葉期最後の土日が終われば、早く木々たちを休ませ、冬の眠りに就かせてあげたいと願っています。もみじ、かえで、桜、銀杏、ドウダンツツジ、今年も皆さんを楽しませてくれてありがとう・・・。




       う  ら  を  見  せ  お  も  て  を  見  せ  て  ち  る  も  み  じ       良寛和尚





      見納めの吉祥院の古典菊 / 山茶花と本堂の鬼瓦     マウスを載せれば写真が変わります
 吉祥院の菊も終わり、数日前から住職が片付けを始めました。今年は例年よりも花期が長かったように思います。
 住職が40年以上皆さんに見ていただいてきた菊花展も、ひょっとしたら今年が最後かも知れません。おそらく、住職もそういう感慨を持って、いま片付けをしているのでしょう。
 門にぶら下げてある「一筆記念に何でもお書き下さい」という大学ノートには、皆さんのいろいろな思いがしたためられています。
 「学生の頃、毎年秋には見せていただいていました。東京に住むようになり30年。秋になるといつも『今年も咲いているだろうか』と思っていました。今年は思いが叶いました。ありがとうございました。」
 「大阪に嫁いだ娘と3日間京都の旅。最後の訪問地で錦秋の美と丹誠込めて作られた菊に接し、心洗われました。」
 「今日は結婚記念日。3年です。2人共京都が大好きで、この紅葉の時期を選んで式を挙げました。今日は息子も一緒。とってもきれいな紅葉の下で、家族でおにぎりを食べる。これほどの幸せはありません。」
 「今年も見事ですね。父も連れてきてあげたかったのですが・・・。私共も介護で忙しい日々を暮らして居ります。美しい色とりどりの菊を見せて頂き、気持ちが落ち着きました。感謝と共に過ごさせて頂きます。有り難うございました。」
 「同窓生4人美人ぞろい。永年の夢であった京都にやっと来ました。美しい菊、とてもきれいです。私たちみたい!? 心が洗われます。楽しいです。ありがとうございました。」
 紅葉の時期には本当にたくさんの方がお越しになられますが、そのお一人お一人にいろいろな思いがあるものだと、これを読んで思いました。
 今日は暦の上では「大雪」。そろそろ寒さも厳しくなってくるでしょう。私たちそれぞれに大きな働きかけをしてくれた草木たちがひと休みする季節がやってきます。


      母  の  名  の  き  く  の  寺  な  り  吉  祥  院              明 心

      お  十  夜  の  鐘  の  響  や  菊  薫  る                    冬 郎

      借  景  の  紅  葉  に  語  り  尽  く  せ  た  り              水琴窟カフェにて

      か な で ゆ く 水 琴 窟 に 耳 澄 ま し 紅 葉 間 近 コ ー ヒ ー 味 わ う            H.O

      ま  ご  こ  ろ  の  こ  め  た  む  く  い  を  菊  に  と  ふ     清 枝


〜 菊見ノートより 〜