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雨で外の仕事はできず、拝観者も朝から‘ゼロ’。本堂の職員の詰め所で大の男が顔を突き合わせているのも気詰まりなのでしょう。酸欠になった金魚が空気を吸いに水面に顔を出すかのように、職員も外の空気を吸いに出てきたに違いありません。 「いやぁー、シャラがよく咲いてるねぇ。美しいですねぇ(この職員はサ行が訛ります)」と、本堂前の沙羅の花を見てガラにもない感想を述べ、あれやこれや四方山話をしてくれました。 ボクは何かいい光景はないかとあたりを見回しながら、「やっぱり‘ゼロ’ですか。こう降っちゃ、写真も撮れませんわ」などと生半可に応えて、職員は金魚が再び水中に潜るようにまた本堂の中へ、ボクはカメラ片手に雨の中へ出ていきました。
6月は雨の多い月。それなのに、どうして「水無月」と呼ぶのでしょうか? 水無月の「無」は有る無しの「無し」ではなく、「の」という意味。水無月は「水の月」なのです。沖縄が梅雨明けする頃から梅雨は本格化すると言われていますが、これから雨の月の本領発揮となりますかどうか。 雨の日の境内は本当に静かです。その静けさを大いに活用するかのごとく、盛んに鶯が啼いていました。 夏になっても鳴いている鶯を「老鶯」といいますが、老いてしわがれ声になった鶯という意味ではありません。「老鶯」とはもともと漢詩に出てくる表現で、「老」には尊敬の意味が含まれています。今朝の鶯は、円熟味を増した素晴らしい鳴き声でした。 雨が次第に強くなるにつれて鶯の声は止み、雨だれの音が支配的になりました。雨だれの音も、たとえば本堂の樋から滝のように落ちてくる雨垂れと木々の枝から石畳に落ちる滴りの音では、音の強さも高低も透明度もまったく違います。 カメラが濡れるのを気にしつつ、鳥の声、雨だれの音、自らが歩く度に立てている様々な音を楽しみながら境内を散策していたら、安物のスニーカーはすぐに浸水してしまいました。雨の日はゴム長に限ります。 追 い つ い て パ ラ ソ ル の 影 重 ね け り 連 宏子
今日もまだ数多くの花が付いて香りも漂っていますが、往時のような輝きはすでになく、驚くことにもう実が付き始めています。花を咲かせるのと実を大きくするのが同時進行しているような感じです。 菩提樹の花はそれほど目立つわけではないのに、ワァッと一気に咲いて見る者を魅了します。その印象強さゆえでしょうか、あるいは名前の魅力でしょうか、「菩提樹はまだですか?」と今年もたくさんの方に聞かれ、「もう盛りを過ぎました。また来年お越しください」などと言うと、とてもガッカリされました。 しばらくすると花はすべて落ちて、全部、実に替わっているでしょう。その実が一つも欠けることなく大きくなったら、木は保ちません。自ら淘汰して実を落とし、秋には‘健康優良 実’のみが残って熟します。 「魚の子は多けれど魚になるは少なく、
「菩提樹」がたくさんあってややこしいですが、この木の本当の名前は「モクゲンジ」。実を数珠や羽根つきの玉に使う「木患子(無患子)」を音読みしたのが名前の由来だと言われます。朝鮮・中国に広く分布し、中国への留学僧が帰国する時に日本に持ち帰られたといいます。 開花したばかりなのに、もう、小さく黄色い花弁がたくさん降ってきます。英名の‘Golden rain tree’は、そんなこの木の花の特徴を実に上手に表していると感心します。 この木も開花した後すぐに、ホオズキのような袋果を房状に付けます。袋果は秋になると褐色になり、中には真っ黒い実が4〜5個ずつほど熟します。それで数珠ができるところから‘菩提樹’と言われたようですが、実は5ミリほどで数珠にするには少さく、腕輪念珠がやっとできる大きさです。 花は木の下からではよく見えませんので、ご遠慮なく吉祥院の門を入っていただき、振り返ってご覧ください。 それにしても、日本人は中国から渡来した実の付く木を「菩提樹」と呼びたがる傾向があるのでしょうか?
紫陽花をもっと増やそうと、今年もまた挿し芽を始めました。10年ほど後の6月の真如堂は、菩提樹と沙羅、そして紫陽花を一度に楽しんでいただけるようになっているかも知れません。 3週連続、雨の更新となりました。1週おいて、その前の更新日も雨でした。雨の日は片手にカメラ、片手に透明なビニール傘の不自由なスタイル。カメラは濡れるし、這い蹲ったり、屋根に登ったりして写真を撮ることもできません。来週の更新日は晴れて欲しいなぁ〜。 今日は夏至。「でんきを消して、スローな夜を」と、「100万人のキャンドルナイト」というイベントが全国で行われています。夏至の今日、そして明日と明後日の夜8時〜10時までの2時間、電気を消して、蝋燭の光でたとえば音楽を聴いたり、子供に絵本を読んであげたり、食事をしたりしながら、ライフスタイルを見直して環境のことを考えましょうというイベントです。 夏至を過ぎればそろそろ本格的な夏がやってきて、エアコンを使う機会も増えてきます。3日間だけでも、自然の風に揺らぐ蝋燭の灯りの中で、ロマンチックでスローな夜を過ごしてみるのもステキではありませんか? 蝋燭がお入り用の方は取りにいらしてください。使い掛けの蝋燭がいっぱいありますので。 夏 至 今 日 と 思 ひ つ つ 書 を 閉 ぢ に け り 高浜虚子 |