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           一気に新緑の境内へ / 桜もあるでよ   マウスを載せれば写真が変わります
 桜吹雪が舞う1日でした。
 午後からはお天気が崩れるという予報が外れ、雨は夜遅くに降り出しました。いま、真っ暗な窓の外からは強い雨音が聞こえてきます。桜も今夜限りでしょうか、明日の朝には桜の花びらが水紋を描いているでしょう。
 今日は風がありました。風が吹くと、境内のあちらこちらで、桜色の‘集団’がフワッと一斉に飛び散ります。遠目にも地面が桜色に染まっているのが見え、その‘桜色’が風に流されて移動したり、クルクルと渦を巻いたり、澱んで集まったりしていました。
 歩いていても顔にいっぱい花びらがぶつかってきて、「ボクの前途は桜色だなぁ!」などと、とても幸せな気分に浸らしてくれました。
 「桜が散ったらお掃除が大変でしょう?」とよく言ってくださいますが、落ち葉を集めるように、花びらを集めて掃除したことはありません。地面に落ちた花びらは、すぐに土へと帰していくのです。自ら後始末をする、お行儀のいい桜の花びらです。
 今年は本当に長い間桜の花を楽しませてもらいました。ありがとう。


  苔の緑、もみじの緑の本堂裏 / 新緑の緑、小さな花の赤の本堂脇 マウスを載せれば写真が変わります
 1週間前にはもみじなどもまだ芽吹き始めたばかりでしたが、あっという間に新しい葉を広げ、一気に緑がちな境内へと変わりました。
 その勢いたるやものすごく、冬の間にため込んでいたエネルギーを一気に使って葉を出し、日の光をわれ先に享受しようとしているかのようです。
 4月の初旬になると桜が咲き、そのすぐ後を追って芽吹きが始まります。太古の昔から、順番を違えることなくずっと繰り返されてきた営みなのでしょう。お天道様の台帳にはちゃんと順番が書いてあるに違いありません。でも、中にはうっかりしている木があったり、フライングする芽などがあって、時にはその順番が破られそうになることもあるでしょう。
 九州旅行をしてきたという方が、桜もつつじもいっぺんに咲いていたとおっしゃっていました。冬があたたかかったので、桜は休眠打破に手間取って逆に開花が遅れ、他の植物は開花が早まって、結局一度に咲いてしまったのかも知れません。
 でも、そんなことは悠久の時間の中ではほんの些細なことに過ぎません。また大きな流れの中に戻っていくのでしょう。季節が目まぐるしく移ろう時は、そんな大きな力や流れを如実に感じます。

   息を呑むような朝日の中の点描画 / 朝日の本堂前    マウスを載せれば写真が変わります
 桜が満開で、まだ新緑が控えめだった頃の境内を写生するには、画面の多くを桜色で塗りつぶせば済んだかも知れません。
 でも、今の境内は赤、朱、緑、浅黄、黄緑、茶・・・、先週にも増して実にたくさんの色が複雑に混じり合っています。そして、それぞれが朝、昼、夕の光の当たり方で、絶妙に、微妙に色を変えています。
 満開の頃のように少ない色数で塗りつぶそうとしても、とても表現できない微妙な色合い。今の境内は点描画の世界です。
 点描画で有名なスーラは、パレットの上で絵の具の色を混ぜてしまうと色のあざやかさがなくなってしまうので、様々な原色の‘点’をキャンバスにのせて描いたといいます。絵を見る者の目の中でその‘点’の色が混ざり、深い色合いに見えたのです。今の境内はまさにそんな感じです。
  カエデの赤、桜の新葉の茶、もみじの浅緑/ もみじ、カエデ、桜花    マウスを載せれば写真が変わります
 今朝、境内を歩いていて、「ボクは桜が満開の頃の境内よりも、今のほうが絶対に好きだなぁ」と確信しました。
 桜の花に華やぐ頃の境内に比べて、今のほうがよほど色や形に深みがあるのです。1日の中の時の移ろいや空の色の変化によっても、どんどん色が変わっていって、見ていても決して飽きることがありません。
 もう少し時間が経って、緑一色になってしまったら、今のような新鮮で複雑で移ろいやすい色合いは薄れてしまいます。今の一瞬一瞬にしかない色合いを、ぜひご覧ください。
 オススメは、晴れた日の朝9時頃や夕方4時頃です。朝日や夕日など斜めの光はすばらしい演出をしてくれますよ。




       空  を  ゆ  く   一  と  か  た  ま  り  の  花  吹  雪       高野素十





    もみじの新緑と桜の花びら/ 花びらの中に落ちた椿     マウスを載せれば写真が変わります
 今日の境内は修学旅行生の姿を多く見かけました。
 堂守の職員さんに、「今日は修学旅行が多いねぇ」と言うと、「あのー、あれ。中国の主席が来ていらっしゃるから。嵐山とかに行けなかもんね」と佐賀弁訛り?で応えてくれました。
 中国の温家宝首相は、今日、京都入り。京都迎賓館、立命館大学、右京区の農家、嵐山・周恩来元首相の記念碑などを回られました。
 賓客の訪問に、市内は他府県の警察官も動員されての厳重な警備。車線が減らされたり、通行規制がかかったりで、車は渋滞。修学旅行生を乗せたタクシーは、嵯峨野や嵐山方面を避けて、規制の影響を受けず、人の少ない真如堂にたどり着いたのでしょう。
 修学旅行で京都に来たという人は多いですが、大人になってから聞いてみると、大半の人は「何を見たか、どこへ行ったか覚えていない」とお答えになります。中学生や高校生の時は、お寺などにはさほど興味がない子がほとんどですから、無理もありません。
 今日の修学旅行生も、境内で鬼ごっこをしたり、ベンチでゴロ寝しているだけで、本堂にはお参りもしていませんでした。でも、そんな時間のほうが子供たちにはきっと楽しかったでしょう。「桜と新緑の境内で、のびのび、ゆっくりしてくれてよかったなぁ」と思いました。

      シャガと桜と大文字金瘡小草キランソウと桜の花びら     マウスを載せれば写真が変わります
 境内で見頃を迎える桜は、これから鐘楼堂の回りの八重に移ります。いまはわずかに数輪が咲いているだけですが、八重の大きな花が満開になった時には圧巻です。見頃はまだ1週間先でしょう。
 椿もきれいですよ。馬酔木もまだまだ見頃です。シャガは境内のあちこちで咲いています。
 自坊吉祥院の前の山吹は、もうかなり色あせてしまいました。諸葛菜(紫花菜)の紫も鮮やかです。
 目をこらして、野の花を探してみてください。カラスノエンドウ、オオイヌノフグリ、カキドオシ、キランソウ、ヒメオドリコソウ、タンポポなど、いろいろな花がい〜っぱい咲いています。
 境内は百花繚乱。「おお! こんなところに!」と、出会いや発見の喜びが味わえるのも、境内でゆったり過ごせばこそ。お弁当持ちでお越しくださぁ〜い。




      野  に  出  で  よ   見  わ  た  す  か  ぎ  り  春  の  風       辻貨物船