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   朝の本堂前 / まだ充分な朝日が差してこない本堂脇   マウスを載せれば写真が変わります
 寒の戻りを感じさせる日々が続きました。昨朝、は京都・西山の愛宕山がうっすらと白くなり、最低気温は昨日も今日も3月上中旬並み。朝夕にはまたストーブが必要になりました。「花冷え」とはよくいったものです。
 この寒さのお陰で、桜の花はまだまだ健在。境内では、先月末に枝垂れ桜などが咲き始めて以来、いまようやく染井吉野が満開。まだしばらくの間は桜を楽しませてもらうことができそうです。こんなに長く桜の花が楽しめるのは、珍しい気がします。
 今年も平年よりも早い開花予想が出され、「この分では入学式に桜は散ってしまっているのでは・・・」と心配していましたが、今日、京都市内の公立小学校では入学式が行われ、満開の桜が新1年生を迎えてくれました。入学式に桜はよく似合いますね。


    日中の総門前 / 本堂脇にも光が供給され   マウスを載せれば写真が変わります
 境内では今が盛りと、桜が咲き誇っています。江戸彼岸の「縦皮桜」や枝垂れ桜はピークを過ぎていますが、染井吉野は満開。境内一円に桜の花色が広がり、わずか2週間ほどの間に一気に華やいだ雰囲気に変わりました。
 早朝から夕方まで、桜を愛でる方が次々と来られて、境内に人影が絶えることはありません。「日本人って、本当に桜が好きなんだなぁ」と思います。
 京都の幹線道路でも観光バスが目立つようになり、桜が咲く頃になってからは道がよく渋滞するようになりました。4〜8日は京都御所が一般公開されていることもあって、特に人が多い気がします。市内のホテルは満室とか。春も秋の紅葉期に似た状態になってきました。
 真如堂にも、例年よりも多くの方が来られているように思います。紅葉で有名な真如堂なら桜もいいだろうと思っておられるのでしょうか? 境内の桜は、江戸彼岸、山桜、染井吉野、八重桜など、約50本。ゆっくりお花見をするにはもってこいかも知れません。

   昼下がり、本堂から見た桜 / 鐘楼堂の桜    マウスを載せれば写真が変わります
 お天気がよい日には、朝早くからカメラを持った人たちが境内にやってこられます。
 60歳を過ぎた一群の人たちが、一眼レフに三脚のお決まりのスタイルでやってきて、「あんなに‘団子’になっていたら、みな同じ写真になるのでは?」と思うほど横並びに三脚を構えて写真を撮り、また別の場所に移って三脚を並べ、「そろそろ、行こうかぁ!」と、次なる目的地を目指して行かれます。
 ファインダーを通してしか花を見ておられない気配ですし、「三脚を広げて陣取っていて動かないし、前に行ったら怒られるし・・・」と、観光客のみならず、個人で写真を楽しみたいという人にも評判はよくありません。
 本堂の堂守が、「『この写真はどこから撮ったものですか?』と、写真を見せて尋ねられます。しゅっちゅうですよ」とこぼしていました。雑誌に載った写真や有名な写真家が撮った写真と同じアングルで撮りたいと思っておられるのでしょう。
 露出やシャッタースピードはカメラ任せ、アングルは有名写真家と同じ。出来た写真は風呂屋の書き割り並み?
 もっと自分のハートにビビッと来る‘絶景’を探して撮ってください! 誰がとっても同じでは、モデルの桜がかわいそうですよぉ! 失礼。




      さ  き  み  ち  て   さ  く  ら  あ  を  ざ  め  て  ゐ  た  る  か  な       野澤節子





  夕暮れ時の桜とカップル/ 鐘楼堂基壇に座る親子    マウスを載せれば写真が変わります
 5時過ぎ、日が西に傾いて人影がまばらになってきた頃、もう一度カメラを持って、境内を散策しました。夕日が桜の花びらを赤く染めてくれるだろうと期待したのです。
 でも、今日の夕日はあまり赤くありませんでした。そういえば、春には真っ赤な夕焼けがあまり見られない気がします。なぜでしょう?
 日が沈んでいくにつれて、次第に花や木の色が奪われていきました。デジカメでいうなら、彩度が下がっていく感じです。
 昼間は、桜花色や芽吹いてきたもみじの若緑色、カエデ新芽の紅色など、実に様々な色に溢れていた境内ですが、夕暮れが近づくにつれて少しずつ減色し、やがて墨絵のようなモノトーンへの世界へと変わっていきました。
 墨絵といっても黒一色ではなく、「墨に七色あり」と微妙に色が違うように、桜の花は桜の花なりの透き通った薄墨色、太い幹は少し茶色がかった墨の色と、それぞれ違っている気がしました。
      総門にも夕日が差して/ シルエットと化していく枝垂れ桜  マウスを載せれば写真が変わります
 さらに日が沈むと、花や木はすっかり色を失って、やがてシルエットに。今まで‘色’に心を奪われていたのが、今度は木や建物の‘形’が際だって見えてきました。
 いつの季節でも夕暮れには情趣を感じます。朝や夕方の斜めの光、青い光、赤い光は、実に演出上手です。
 昼間はざわついている境内も、その頃にはすっかり静かになります。時々、犬の散歩をする人が通りがかったり、本堂の正面でぼんやり過ごしている人がいたり、薄暗くなるのを待っていたカップルがいたりする他に、静寂をさえぎるものはありません。
 そして、一晩明けて明日の朝には、モノトーンに変わっていった境内が、日の光に照らされて色を発していくのです。桜花は桜の花の色に、もみじの新葉は新しい緑の色に、日の光がそれぞれに色を置いていき、‘墨絵’がまた‘色絵’へと変わっていきます。それをイメージするだけでも充分楽しめます。
 同じ桜の花でも、朝昼晩、それぞれに違っています。ぜひ、ゆっくりお越しになって、その光のマジックをお楽しみください。花冷え対策をお忘れなく。

      可愛いもみじの花/ 満開の山吹  マウスを載せれば写真が変わります
 今は桜一色で、他の花に目が向かない方も多いでしょうが、境内には他にもたくさんの花が咲いています。
 芽吹き始めたもみじの梢を見てください。赤い小さなものがぶら下がっているのに気がつかれるでしょう。もみじの花です。新芽と同時に、赤い小さな花を咲かせています。
 新芽だけだとすっきり黄緑色に見えるのですが、花の赤が混ざっているので、もみじの梢は何とも複雑な色合いをしています。
 本堂の回りでは、馬酔木や山茱萸さんしゅゆも咲き続けています。椿の花は境内のあちらこちらで見ることができます。
 自坊吉祥院の前では、一重の山吹が咲いて、風にそよいでいます。新しく出た葉の緑と花の黄色のコントラストが、実に綺麗。たくさんの方が山吹にカメラを向けておられのを見ると、ボクもうれしくなってきます。
 この山吹は、斜面にズラッと並び咲くようにしたいと、ボクが株分けして増やしてる途中なのです。ところが、株分けをした苗を移植すると、すぐになくなってしまうのです。去年は山吹と紫陽花をそれぞれ4株盗られました。せっかく皆さんに楽しんでいただこうと植えているのに・・・花盗人は大罪です!
 桜と一緒に、他の花々もぜひご覧になって、春の佳き日をお楽しみください。




      すみれ   ほど   な   小   さ   き   人   に   生   れ   た   し       夏目漱石