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   支え合って墓地に向かう老人 / 静かな境内、女一人    マウスを載せれば写真が変わります
 「暑さ寒さも彼岸まで」とは、よくいったものです。日中、動いたり日向にいたりすると、少し汗がにじんできますが、朝晩はすっかり涼しくなり、夜具も模様替え。衣類も、夜になると1枚重ねたいと思うようにもなってきました。
 昼と夜の長さがほぼ等しく、太陽が真東から上がって真西に沈む秋分の日は、秋彼岸のお中日です。昼と夜の長さが等しいことが仏教の説く「中道」をあらわし、太陽の沈む真西の方角には、阿弥陀如来のおられる西方極楽浄土があると考えられました。
 いかにも仏教行事らしいとお感じになるかも知れませんが、実は「お彼岸」は日本独自の行事で、他の仏教国では行われていません。
 春彼岸は種苗の時期、秋彼岸は収穫の時期にあたります。春分の頃には豊饒を祈り、秋分の頃には収穫に感謝する信仰が仏教伝来以前の古よりあって、作物を育ててくれる太陽と自分たちを守ってくれる祖先神を祀る儀式が行われていたといいます。

         秋 の 空 、 秋 の 雲    マウスを載せれば写真が変わります
 そんな土着信仰・習俗と仏教が融合し、次第にこの日に墓参りなどをするようになっていきました。庶民がお墓を持つようになったのは江戸時代頃からですので、お彼岸にお墓参りをするのもその頃からのことです。
 20日に彼岸の入りを迎えてから、墓参の方が三々五々お越しになっています。
 お墓参りのスタイルにも、人それぞれの性格がよく表れます。彼岸の入りの朝一番に来られる方、混んでいてもお中日がいいという人、丁寧に掃除をしてお花やお供えも端正に整えられる方、嵐のように現れて嵐のように帰って行かれる方、自宅で咲いたお花をいっぱい持ってこられる方・・・見ていて心が洗われる場合もあれば、もう少し丁寧にお参りなさったらどうでしょうと言いたくなる場合もあります。
 26日までの1週間、いろいろなスタイルの‘お墓参り’で墓地が賑わいます。お供え物を狙ったカラスも墓地を賑やかにします。
 「暑さ寒さも・・・」の彼岸が終わったら、衣替えですね。



       鰯   雲   動   く   よ    塔   を   見   て   あ   れ   ば          山口波津女



    萩も見頃/ 朝の陽に照らされた萩の花   マウスを載せれば写真が変わります
 月並みですが、お彼岸といえば「おはぎ」「ぼた餅」。春は牡丹、秋は萩に因んでいるということはよく知られています。
 では、同じその菓子を、夏は「夜船」、冬は「北窓」と呼ぶのをご存じでしょうか? ボクは先日初めて知りました。そう呼ぶ理由が何とも駄洒落っぽく、本当にそんな名前で呼んでいる人がいるのだろうかと、半信半疑です。
 「夜船」と呼ぶ理由はこうです。餅は作るときにきますが、おはぎは搗きません。搗かない、搗き知らず・・・着き知らず・・・「夜船」。夜の船は、いつ着いたかわからないからだそうです。
 「北窓」。やはり、出発は搗き知らず・・・月知らず。冬に月が見えないのは、北側の窓。それで「北窓」。
 言われてみれば「なるほど」ですが、ボクが司会者だったら、「おい、座布団1枚取れ!」と言いたくなります。「お萩」も「牡丹餅」も及第点ではありませんが、季節がわかりやすいことが救いです。
 ボクの秀逸な駄洒落も追々ご披露することとして、今は豊饒や収穫の祭事と関係の深いお彼岸に、小豆を食べることに興味が湧きます。

     朝日のスポットライトを浴びた彼岸花     マウスを載せれば写真が変わります
 祝い事、節句、ハレの日などには、赤飯を食べる習慣があります。赤飯や小豆飯は古代の赤米の名残だといわれますが、古来より中国〜日本などでは、小豆の赤色は魔や穢れを払う霊力があるとされ、小豆を食べることによって、それらから身を守ることができると信じられていました。
 真如堂でも、11月15日のお十夜の結願に、年老いてからも下の世話をして貰わなくても済むという「タレコ止め」の小豆粥の接待をします。小豆は便秘や脚気によく、また溶血作用のあるサポニンが含まれていて、血栓ができるのを防ぐ効果もあるといいます。「タレコ止め」の粥は、小豆の霊力と薬効を巧みに取りいれたものと言えるでしょう。
 おはぎやぼた餅をお彼岸に食べることは、当然、小豆が持っていると考えられる霊力や薬効と無縁ではないと考えるのが自然でしょう。でも、食べ過ぎは霊力・薬効共に激減かも知れません。


朝の光に美しいすすき / 1日早いけれど、あの夕焼けの向こうに極楽浄土が… マウスを載せれば写真が変わります
 今日は新月。「西も東も、真っ暗闇じゃ 御座いませんか・・・。」 ちょっと古かったでしょうか。
 これから日一日と月は満ち、旧暦8月15日に当たる来月6日が十五夜、「中秋の名月」です。でも、満月は翌16日。旧暦の15日と満月は必ずしも一致しません。
 都会では、なかなか真っ暗な夜に出会うことができませんが、真っ暗闇は怖い反面、その真っ只中に身を置いてみると、目・耳・鼻や皮膚感覚がにわかに活性化して、野生が取り戻されてくるのがわかります。本能ですね。
 心も、たまには回復可能な範囲の窮地に立たせてやるほうが、折れたりキレたりしにくい心に鍛錬できるかも知れません。
 身体も鍛えれば強くなる! そう思って、笠もかぶらずにお彼岸の墓前回向をして頭皮を鍛えていたら、頭がヒリヒリしてきました。鍛えるのは無理。お彼岸が終わる頃には一皮剥けてしまいそうです。
 朝晩の気温差に、お風邪をひかれませんように。涼しさを我慢して鍛えるより、1枚着ましょう!



       南   無   秋   の   彼   岸   の   入   日   赤   々   と        宮部寸七翁