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  音を立てて落ちる雨垂れ / 雨はやがて水筋を作って流れます  マウスを載せれば写真が変わります
 連日の雨。期待していた梅雨明けの報は跡形もなく流れ、この先いつになったら本格的な夏がやってくるのか、予想が立ちません。
 7月に入ってから雨が降らなかったのは7日間だけ。10日前後に少し晴れた日が続きましたが、その前後は雨ばかり。ここ1週間も連日雨が観測されています。
 梅雨入りの頃に、今年の梅雨は男性的かも知れないと書きましたが、実に連綿とした、今風の‘男性的な’梅雨になりました。
 去年は確か空梅雨ではなかったかと思いますし、梅雨の間にたくさん台風が来た年もありました。大きな目で見ると、同じように春夏秋冬が巡ってきてはいますが、細かく見ると、その巡り方は年々によってずいぶん違います。そして、それがまた景色となり、彩りとなって、私たちの生活に変化をもたらしてくれています。

        石畳もベンチも水浸し      マウスを載せれば写真が変わります
 もし、決まった日に梅雨が明け、毎年毎年同じように天候や気温が移り変わっていったとしたら、私たちはハウスで育成される野菜と大差なくなってしまいます。
 川端康成はノーベル文学賞受賞時のスピーチ『美しい日本の私』で、自然と暮らし方と表現としての芸術が一体となって日本文化が生まれたと話しておられます。和辻哲郎が、「風土が人間に影響する」と記したように、決して一様ではないこの自然の有りさまが、日本の風土を、日本人の気質を作り出してきたのでしょうね。
 何だか、話が大きくなりました。ただ、今年は梅雨明けが遅いと書きたかっただけなのですが・・・。
 今日は土用の入り。23日は大暑。暦の上では、今日から夏の最後の18日間が始まり、そして8月8日には立秋を迎えます。京都の気温が最も高くなるのは、この夏の土用の間です。さて、今年の土用はどうよ?



       ふ  か  ぶ  か  と  沁  み  た  る  雨  や  土  用  入       木津 柳芽




   雨滴の目立つ放生池 / 雨の合間の大文字山      マウスを載せれば写真が変わります
 こう雨ばかりでは、境内を訪れるのは傘を差した犬の散歩をする人などばかり。
 祇園祭の巡行の翌日までは、拝観をする人も少しばかりはおられたようですが、昨日はお二人。今日は・・・。
 人影のない境内のあちらこちらでは茸が生え、余計に雰囲気を寂寞とさせています。
 雨の日、雨水はどう流れていくか、溝は詰まっていないか、樋はあふれていないかと境内を見て回ることはとても大切です。強い雨が降ると本堂正面の白砂は正面参道に流れ出し、雨水が流れ込む枡のグレーチング蓋は、すぐに落ち葉や土が詰まって、水を吸い込まなくなってしまっています。すぐに改善できるところは対処し、できないところは晴れた日を待ちます。
 子供が水たまりを好きなように、ボクも雨の日に境内を見て回るのが大好きです。でも、先日、雷が真上にいるのに調子に乗って巡回した時は、さすがにコワかったです。そろそろ、「いい歳をして・・・」と言われないように注意しないといけません。


     闇に光る水路 / 雨が降ると湿地に変わる苔地    マウスを載せれば写真が変わります
 雨はお昼前にいったん上がりましたが、また2時過ぎから降り出しました。
 穴から出て勢いよく鳴きだした蝉も、こう雨が続くとすっかり鳴くのを止めてしまっています。
 前々回のこのページではニイニイ蝉のことを書き、前回はアブラ蝉のことを書いて、不思議にも、その各翌日から両蝉たちが鳴き始めました。2度あることは3度あるといいます。「クマ蝉の声が明日あたりから聞こえてくるかも知れません」と書きましたが、さぁどうするクマ蝉さん? まだちょっと早いでしょうね。
 お昼頃の雨が上がっている間隙をぬって、ヒグラシが一声だけ鳴きました。「あれっ? ヒグラシ?」と耳を澄ませましたが、声はそれっきりでした。夕方になって、今度は3節ほど鳴いてくれました。今日、穴から出たばかりなのでしょうか? 一声と言えば、今日は鶯も一声だけ啼きました。
 トンボたちは、お昼頃に雨が上がると、すぐに空高く群れをなして飛び始めました。そして、また雨が降り出すと、一斉にどこかへ行ってしまいました。どこをねぐらの今日の宿 ♪


    雨が多くて実付きの悪いモクゲンジ / 南天はまずまず    マウスを載せれば写真が変わります
 25日は、真如堂の年中行事「宝物虫払会」。本堂に、掛け軸など200点弱の宝物を順不同かつ無造作に吊るし、土用の風を通して、害虫を払います。
 あくまでも虫払いが目的ですから、博物館の展示のような丁寧な解説が付いているわけではありません。ほとんどは掛け軸の下に干してある木箱の表書きなどだけが、その作品の唯一の手がかりです。
 約200点すべてが文化財的に‘お宝’かどうかは怪しいところですが、真如堂にとっては大切に守り伝えられてきた‘宝物’。善導大師筆の弥陀三尊図、恵心僧都筆の山越弥陀図、弘法大師筆の不動明王図など、「えっ、これ本物? ウソでしょう!」と驚かれるようなものが並んでいても、ご愛敬と思ってご覧下さい。
 「不動明王 制多迦 矜羯羅両童子図 伝弘法大師筆」となっていたら、弘法大師がお描きになったと伝えられていると思ってください。木箱の箱書きを書いた古の人の、「之は本物でござろうか? 否、‘伝’でござるな」という苦笑顔が想像されます。

     藪みょうがの花 / 今年の花と去年の実が同居する万両    マウスを載せれば写真が変わります
 こんなふうに書くと、あやしいものばかりのように思われるかも知れませんが、狩野山雪の寒山拾得、兆殿司の涅槃図など、見ごたえのある逸品もたくさんあります。『真如堂縁起』は元禄6年頃の写本のみ展示され、運慶願経の『法華経』は展示されませんので、ご注意ください。
 また、ヘイサラバサラ(牛や鹿など獣類の胆石)、ケセランパセラン(綿毛のようなふわふわした白い毛玉の謎の生物)、ヒビの入った食らわんか茶碗などの珍宝?もありますよ!
 内陣の左奥では、安倍晴明公が地獄で閻魔大王から授かって帰られたという「五行之印」による祈祷も行われ、「往生極楽護符」が授与されます。
 筆を尽くしてきましたが、雨天の場合は中止。夕立などで早じまいすることもありますので、ご留意ください。
 まだ、雨が降り続くようです。どうか、皆さん、お気をつけください。



        虫   干   や   絵   巻   ほ   ど   け   ば   姫   の   髪        中村堯子