6/16版 



            照りつける夏の光の中の女性     マウスを載せれば写真が変わります
 夜来の雨も夜明けまでには上がり、梅雨の最中とは思えない晴天となりました。
 最高気温は31度。日なたにいるとジリジリと暑く、少し動くだけで汗が出ましたが、大きな本堂のひさしの下や緑陰にいると、爽やかな風が渡ってきました。
 まだ30度を超える気温に体が慣れきっていないためか、31度という最高気温は結構堪えます。しかも、ここ数日の最高気温は株価のような乱高下。今日の最高気温は昨日のそれより7度も上がりました。‘高値安定’のほうがまだ楽かも知れません。
 8日に近畿地方が梅雨入りしてから、雨が降ったのは3日間だけ。今年は、降る降らないにメリハリのある、いわゆる「男性的な梅雨」なのでしょうか? 男性が変質したため、この言い回しはほとんど死語になりつつあるように思えますが。
 梅雨が本格的になるのが6月下旬頃から。西日本の梅雨は東日本に比べてドシャ降りになることが多く、雨粒が大きく雨量も多く、雷を伴ったりするのが特徴だそうです。
 晴れては暑い、雨が降っては鬱陶しいと文句タラタラ。毎年の営みです。

  梅雨とは思えない盛夏並みの青空と濃い緑     マウスを載せれば写真が変わります
 暑い日にもかかわらず晴天に誘われ、境内へ足を運ぶ人も少しはおられます。
 人影の多くない境内で目立っていたのは、繁りだした木々の剪定作業をする植木屋さん、大声でしゃべる職員、ご高齢の方々の、極めてまとまりに欠ける‘歩こう会’的集団。そして、本堂の階段に腰掛けながら大きな声で岩盤浴の話をしていた女性3人グループなどでした。
 11時頃、正面参道の石段を上がりきったところにある茶所の前で写真を撮っていたら、初老の男性に「この花は何ですか?」と尋ねられました。「山梔子くちなしですよ」とお教えすると、「珍しいですねぇ」とおっしゃったので、「珍しいことはありませんよ。よくある花ですよ」と、歌は交えずに、少しレクチャーをさせていただきました。
 すると、その方はボクのことを植物の専門家だと早合点されたようなので、「いえ、私はこの寺のものです」と打ち明けると、今度は「あ、お寺の管理の方ですね」と、また早とちり。帽子をとって‘証拠’を見せようかとも思いましたが、質問が増えて写真が撮れなくなると困るので、黙認しておきました。
     山梔子と三重塔 / 夏を語る濃い緑      マウスを載せれば写真が変わります
 遠目にその方の様子を伺っていると、トイレ脇の手水鉢の水を茶所の土間一面に撒き、涼を呼び込んで読書三昧の境に入られました。
 ボクが昼食を食べて再び正面参道を上がっていくと、今度は茶所からハーモニカの音が聞こえてきました。読書三昧の御仁はハーモニカ三昧へ趣向を替えておられました。先日来、時々ハーモニカの音が聞こえていたのですが、音の主はこの方だったのかと合点がいきました。
 聞けば、ご自宅はすぐ近くとか。この茶所の一角で数時間をお過ごしになるのは、風流人ゆえなのか、何かご事情がおありになるのか・・・。いかなる理由にせよ、どうせなら快適な時間をお過ごしいただきたいと思い、次からは蚊取り線香を持参されることを勧めたところ、御仁は大いに賛同されました。最後に、御仁はまた大量の水を撒き、茶所の善光寺如来に参拝して、去って行かれました。
 それにしても、山梔子の前を何組もの方々が「この花は何? ジャスミン?」などと話しながら通って行かれます。少し花弁の大きな山梔子ですが、匂いからしても、山梔子より他に考えられないはず。
 ガーデニング・ブームで横文字の難しい花の名前はよくご存じの方が増える反面、ごくオーソドックスな山梔子のような花がわからなくなっておられるのでしょうか。御仁がご存じなかったのも、無理はないと思いました。



        梅   雨   晴   や   距   離   を   延   し   て   万   歩   計      江頭 景香





           晴天に映える菩提樹の花      マウスを載せれば写真が変わります
 本堂前の菩提樹の花が咲き出しました。昨年より4〜5日遅いペースです。
 正面参道の石段を上がっていくと、まず山梔子くちなしの匂いが漂ってきて、すぐに菩提樹の花の匂いに取って代わられます。
 ボクも今朝、「今日の更新のメインは菩提樹だ!」と思って本堂前に向かいましたが、樹に近づくまでもなく、匂いで開花を知りました。
 植物図鑑などには、「香りのよい花」と書いてありますが、そう思わない方もあるようで、今朝、犬の散歩をしていた女性は「変な匂いがしますねぇ」と言っておられました。
 確かに、椎の木の花の匂いに通じるような生臭さを少し感じますが、もっと甘く清らかで、その香りに誘われて蜂などがたくさん集まってきます。
 菩提樹は、お釈迦さまがこの樹下で悟りを開かれた(菩提を得られた)という仏教の聖木ですが、日本の寺々に植わっているものは、インドの菩提樹とはまったく種類が違います。
 インドの菩提樹はクワ科の常緑高木で、樹の高さが約20メートル、幹の直径が2メートルにも達することがあります。日本の寺の菩提樹は中国原産。シューベルトの曲にある『菩提樹』は、‘リンデンバウム’の名で知られているヨーロッパ原産の西洋菩提樹。共にシナノキ科です。

 葉腋から出た集散花序にクリーム色の花がたくさん付きます  マウスを載せれば写真が変わります
   中国・日本の菩提樹はインドの菩提樹とは違う種類の木ですが、中国ではインド菩提樹は育たないため、葉の形が似ている木を‘菩提樹’として代用し、それが日本に伝わったのです。
 吉祥院の前庭には、リンデンバウムの樹があります。ビニロンを開発された科学者で、文化勲章を受章された桜田一郎博士(1904-1986)が、留学中のドイツから持ち帰られたもので、近年、ご自宅から吉祥院に移植されました。
 樹の性分なのか仕立てによるのかわかりませんが、直幹で、いかにも‘ドイツ!’という樹形をしています。まだ、一度も花を咲かせたことがないのが残念です。
 真如堂の事務所には、「菩提樹は咲いていますか?」という電話が、最近よくかかってきます。「今、咲いてますよ! もう見頃ですよ!」 見頃は20日過ぎ頃まで。花の終わりの頃、樹下が花屑で黄色く染まるのも見物です。
 本堂前では、沙羅の花も咲いてきましたが、今日現在では樹の天辺にわずかに2輪だけ。見頃はまだまだこれからです。


   墓地に咲く南天の花と本堂の大屋根 / 紫陽花「城ヶ崎」   マウスを載せれば写真が変わります
 境内の紫陽花も、20日頃には盛りになってくるでしょう。
 夕べの雨で、紫陽花がたくさん倒れてしまいました。花が重いこともありますが、背が高くなりすぎたのも要因。職員とボクが交互に肥料を施したため、伸びすぎたのです。来年はお互いに連携を取っていい花を咲かせるよう、今日、反省会をしました。
 「城ヶ崎」「うず紫陽花」などの珍しい紫陽花も、鐘楼脇に咲き出してきました。ご覧ください。
 梅雨の頃の花といえばその代表格は紫陽花ですが、南天や千両などもあまり目立たない花を咲かせます。
 南天の花は米粒のような蕾を次々と開き、小さく白い花弁をいっぱい落とながら散っていきます。風が吹いても木に少し触れるだけでも、白い花びらはパラパラと簡単に落ち、咲いている花よりも、むしろ地面に落ちている花弁のほうが目立っています。
 花の時期に雨が多いかどうかが、南天の実の付き具合を大きく左右しますが、去年は梅雨に雨が少なく、南天の実は大豊作で鳥も食べきれず、つい先日まで木に付いたままになっていました。さて、今年は豊作、凶作、どちらになるでしょう? 必要充分な静かな雨がいいですね。
 21日は夏至です。ますます暑さが厳しくなります。ご自愛ください。



       南   天   の   花   の   ひ   そ   か   に   盛   り   な   り         藤松遊子