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 樟の葉の積もる正面参道 / 午後は薄曇りながらも陽射しは強く マウスを載せれば写真が変わります
 昨日からの雨も朝にはあがり、午後からは少し晴れ間も見えるようになりました。でも、風が少しあって気温もさほどあがらず、薄着で日陰にいると少し肌寒く感じられました。
 週間天気予報を見る限り、向こう1週間は気圧の谷や前線の影響で曇りや雨の日が多いとか。卯の花を腐らせるかのように長く降る雨を、万葉の古から「卯の花腐しうのはなくたし」といいますが、まさに「卯の花腐し」週間のようです。
 「五月晴」といいますが、5月はお天気がいいと勘違いされておられる方も多いのではないでしょうか。京都の5月は、6・7・9月に次いで降水量の多い月です。若葉の頃から5月にかけての雨の名前だけでも、「翠雨」「緑雨」「麦雨」「甘雨」「瑞雨」「虎が雨」「走り梅雨」などとたくさんあり、雨の多い季節であることを物語っています。
     同じお年頃、似たような出で立ち / 樹下のスケッチ翁     マウスを載せれば写真が変わります
 5月は、太陽や月のまわりにぼんやりと明るい輪が現れる「日がさ」「月がさ」が1年で最も多い月です。「日がさ・月がさは雨の前触れ」と言われ、「かさ」が現れた翌日は7割前後の確率で雨になるともいわれます。
 さて、今夜のお月さんの回りにかさはあるでしょうか? 13日は満月です。
 お天気が回復した午後からは、連休も終わった平日にしては意外に思えるほど、境内を訪れる人の姿が多く見られました。今の時期は、どこへ行っても人が少なく、混雑もなくて、実に快適です。
 観光まみれではない京都を楽しむなら、今はベスト・シーズンの一つです。つつじ、藤、杜若、一初など、まだまだ花盛りです。



         万  緑  の  こ  の  静  け  さ  に  囲  ま  る  る      阿部ひろし




 緑あふれる境内に降る日の光       マウスを載せれば写真が変わります
 境内の新緑はますます濃くなり、雨が降ると、若葉をいっぱい付けた枝が重そうに垂れ下がってきます。
 雨の後に境内を歩くと、若葉をつけたままの太さ2センチほどもあるもみじの枝が、折れて落ちていることが、時々あります。「誰かに折られたのだろうか?」と思って折れ口を見ても、そんな気配はありません。ただ、虫が食い切った感じの断面の中心に、5ミリほどの穴が開いていています。おそらく、カミキリ虫の幼虫の仕業でしょう。
 仕方がないので片付けようと、若葉を付けた枝を持って歩いていると、通りがかりの人にまるでボクが犯人であるかのような目で見られました。ボクではありませ〜ん。
 そういえば、4月、桜を料理に添えようと盗んだ調理師が、鴨川畔で逮捕され、京雀たちの話題になりました。もみじの若葉や紅葉、桜など盗る料理人を目撃している人も多いらしく、境内にも時おり出没して、折った枝を体の影に隠して逃げ去ろうとします。見つけたら、もちろん“お説教”です。
 くすのきが古い葉と新しい葉を交換する作業を始めたらしく、毎日、葉がたくさん落ちてくるようになりました。掃除をする尻から、パラパラ、パラパラと落ちてくるので、きりがありません。
 「くすし」が名前の起源と言われるとおり、樟は芳しい香りを放ち、掃除をしていても香りが楽しめます。あっ、落ちている樟の葉なら、ご自由にお持ち帰りください。料理に添えたら、「樟脳臭いぞ!」と叱られるかも知れませんが。


   「ナンジャモンジャ」の花 / 「涅槃の庭」と大文字山    マウスを載せれば写真が変わります
 昨日、伏見稲荷近くの小学校の前に並んだナンジャモンジャの木に、白い花がたくさん咲いているのを見ました。
 「きっと、境内の木も咲いているぞ!」と思って、本坊の庭に見に行ったら、ちょうど満開で見頃を迎えていました。この時期、気になる木の一つで、先週見たときは、やっと花穂らしいものが伸びてきたばかりでした。
 このナンジャモンジャの花は拝観コースからが一番よく見えますが、真如堂の木はひょろ高いので、どこに咲いているかわかり難いでしょう。
 ボクが呑気にナンジャモンジャの花の写真を撮っている傍らでは、庭掃除をしている職員が、次々と落ちてくる赤褐色のひのきの球果に手を焼いていました。一つ一つ手で拾い集めるしか掃除する術がなく、座り込んでは手の届く範囲の球果を拾い、また少し移動して座り込むのを繰り返していました。
 「涅槃の庭」越しに見た東山は、モコモコと萌え出でた様々な色の若葉で賑やか。中でも目立つのはしいの木の新芽と花。
 京都の東山で、椎は高度成長期頃から分布を拡大し、山が放置されたことや松枯れもあって、東山中央部ではここ40年で約3倍にも分布域を拡げたそうです。
 かつて、東山の景観を作り出していたのは松でしたが、今は管理が行き届いた修学院離宮の裏山であたりでしかそんな景色は見られません。  この時期の山を見ると、「あー、山の姿が変わったなぁ。中腹より下は椎の木ばかりになってしまったなぁ」と実感させられます。
 

      葉の上に出た赤いもみじの種 / 吉祥院の大つつじ     マウスを載せれば写真が変わります
 本堂の前のベンチのあたりにいると、空からヒラヒラと小さい何かがしきりに舞い落ちてきます。地面を見ると、「花の木」の種がいっぱい落ちています。ついこの前、花が咲いたばかりなのに、もう種が飛んでいるのです。
 もみじは小さな芽がいっぱい出るのに、この「花の木」の種が発芽したのを見たことがありません。雌雄異株ですが、うまく受粉できないのでしょうか?
 風に舞うこの種をキャッチするのをゲームにすれば、かなり面白そうですよ。
 もみじの種も赤く熟して、色の濃くなってきた若葉にアクセントを添えています。花は葉の下に咲いていたのに、種は不思議なことに葉の上に出ています。いつのまに逆転したのでしょう。
 吉祥院前の大つつじが、ようやく咲き出しました。まだ咲きそろっていませんが、次回の更新の時にはもう散ってしまっているかも知れませんので、盛りを待たずに“特別出演”です。
 ここ数日の間に、柊や金木犀などの若葉などが虫に食われてしまいました。気がついた今日には、すでに被害甚大。早速、薬散をしました。つつじが標的にされるのも時間の問題。花を楽しんでばかりいられません。


  「唐種招霊」の花 / 「大山蓮華」の花     マウスを載せれば写真が変わります
 吉祥院ネタが続きますが、吉祥院の門に向かって左側の塀の外では唐種招霊からたねおがたまが、右側の塀越しに大山蓮華が咲いています。共にモクレン科の、少し珍しい花木です。
 「招霊」と書いて「おがたま」と読むのは、漢字検定1級の方でも難しいのではないでしょうか? かなり無理がある読み方です。
 「おがたま」は「招魂おぎたま」がなまったものと言われ、古来から神木として神社に多く植えられていて、玉串奉納にはこの木を使うのが正式とされていたようです。
 招霊おがたま唐種招霊からたねおがたまは異種で、前者は関東南部以西の温暖地帯に自生し、高木となります。白峯神宮には、京都最大の神霊常緑樹で、天然記念物に指定された「小賀玉おぎたまの木」があります。後者は江戸中期に中国より渡来したもので、樹高は3〜5メートルほど。吉祥院にあるのも、まだ3メートルほどの若木です。
 “バナナの木”という俗称もあるそうですが、甘い熟したバナナのような香りをあたりに振りまきます。大山蓮華の花も芳香を放ちますが、唐種招霊が相手では歯が立ちません。それほど香りを放っている両花ですが、虫が寄ってきているのを見たことがありません。匂いばかりで蜜があまり美味しくないのでしょう。
 京都でもモリアオガエルが産卵しだしたようです。いち早く、走り梅雨の気配を感じたのでしょうか。
 昼間は暑くても、雨の夜などは気温が下がって肌寒いこともあります。どうか、お風邪を召されませんように。



        春  と  夏  と  手  さ  へ  行  き  か  ふ  更  衣       上島鬼貫