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水気たっぷりの雪で覆われた境内  マウスを載せれば写真が変わります
 雪の大晦日となりました。最初は雨だったのがだんだん固まり、みぞれから雪に変わりました。水分をたっぷり含んだ重たい雪が、お昼過ぎまで降り続き、境内はあっという間に白いお化粧を施されてしまいました。
 この低気圧が通り過ぎた後は、上空に今冬一番の強い寒気が流れ込んで、なおいっそう冬型の気圧配置が強まるとのこと。寒さ厳しい元旦となりそうで、初詣の足にも影響が出そうです。
 京都市中心部では29日の夜10時頃からみぞれまじりとなり、平年より約半月遅く、やっと初雪が観測されました。「あー寒ぅー」と、本当の冬の寒さを感じたのも一昨日が今冬初めてでした。
 「雪だぁ!」と写真を撮りに出ましたが、ボタボタの雪でカメラは濡れるわ、足下はズブズブ、ボタボタ、ツルツルで、もう大変。手もかじかんできて、だんだん“不器用”になっていきました。
 その間に自坊は2度も停電したとか。保存しないで出かけたこのページのデーターを案じましたが、無停電装置のお蔭で無事でした。雪の影響による停電でしょうか? これしきの雪で?
 せっかく撮ってきた写真も、その後降り続ける雪で境内の景色が変わってしまい、また撮りに出かけなければなりません。そうこうしているうちに、積もるなり落ちてくるみぞれ状の雪で、カメラが濡れてしまい、今“干して”あります。

   歩くには靴が濡れる覚悟がいります/ 燈籠前にはかがり火の準備 マウスを載せれば写真が変わります
 大晦日には、3時から本堂で「除夜会」がいとなまれ、夜零時前から除夜の鐘が撞かれます。その後は元旦の「しゅ正会しょうえ」と一山の僧侶の年賀式と、行事が目白押しです。それに加えて各塔頭でも、「除夜会」と「修正会」が行われるでしょう。
 「除夜」とはもちろん大晦日のことですが、「除日(旧い年を除く日) の夜」という意味で、「じょせき」ともいいます。
 もともと除夜には歳神を迎えるために一晩中起きている習わしがあったそうで、この夜に歳神さまを待たずに早く寝ると白髪になる、皴が寄る、あるいは年をとるとも言われていました。
 このルーツは中国にあるようです。ご存じの通り、中国では旧正月を祝います。春節前夜の「除夕」には、家族全員が集まって「年夜飯」と呼ばれるご馳走を食べて新年に備えます。
 その時に大切なのは、「守夜」(一晩中起きていること)。たくさんのランタンを灯し、家族が集まって過ごしますが、中国でもやはり眠ってしまうと白髪になるとか、顔に皺ができると言われています。日本の言い伝えの源でしょう。
      もみじの枝は見る見る雪化粧    マウスを載せれば写真が変わります
 中国には、こんな伝説があります。
 昔、「年」という凶暴な野獣がいました。「年」は歳末になると人里に現れて人や家畜を食べました。
 ある年の瀬、またもや「年」が現れて、ある村に入ろうとしましたが、たまたま村の牧童が遊んでいた鞭の「パンパン」という音に驚き、村に入らずに逃げていきました。
 また、別の村に入ろうとした時には、乾してあった紅い衣装がヒラヒラと風に翻っているのに驚てた、またもや逃げました。
 夜になり、さらに別の村に入ろうとした「年」は、人家からもれる灯火の光に驚き、とうとう逃げ去りました。
 人々は「年」が音と紅い色と光とを恐れることを知り、二度とやってこないように、門に紅紙(春聨)を貼り、室内に灯りをともし、門前で鞭咆(爆竹)を鳴らすようになりました。
 テレビで中国や台湾の春節の時に爆竹を鳴らして大騒ぎしている光景をよく見ますが、このような物語があったわけですね。
足下に気をつけて歩く墓参の人/木の株が島のようになっている境内 マウスを載せれば写真が変わります
 欧米などで新年のカウントダウンをしている光景をよくテレビで見ます。でも、行く年の自分の行いを懺悔し、新しい年を迎えるにあたって、あるいは新しい歳神を迎えるという気持の方にとっては、カウントダウンより、むしろ静かに過ごしたり、掌を合わせて鐘を撞くほうが、ふさわしいのではないでしょうか。除夜の意味を、もう一度噛みしめたい気がします。
 中国のことを書いているうちに、盛唐の詩人 高適こうせきの『除夜作』を思い出しました。旅先で新年を迎えることになった感慨をうたっていますが、中国の新年の賑やかさを考えると、なおさら寂寥感が漂ってきます。

             旅館の寒灯ひとり眠らず    客心かくしん何事ぞうた悽然せいぜんたる
             故郷今夜千里を思う       霜鬢そうびん明朝また一年

    旅館のわびしい明かりの下で、ひとりで眠れないでいる。旅に出ている心には、どうしたわけか、ひしひしと寂しさが迫ってくる。今夜胸に去来するのは遙か遠くの故郷のこと。白髪頭の私は、明日の朝になるとまたひとつ年をとっていまうのだ。

かがり火の準備をしている鐘楼 / こんな寒い夜に鐘撞くの?   マウスを載せれば写真が変わります

 真如堂の除夜の鐘は、般若心経の読経の後、初めに一山の僧侶が席次順に撞き、その後一般の方に4〜5人で1回撞いていただきます。そして、最後はもう一度僧侶が席次逆順に撞いて終わります。
 4〜5人で1回というのは、お越しになった500人ほどの方全員に、108回の制限内で鐘を撞いていただくためです。
 「どうして108つなのですか?」「どうやって、撞く鐘の数をかぞえているのですか?」ということをよく尋ねられます。
 この108つは、よく「煩悩の数だ」と説明されます。
 眼・耳・鼻・身・意(6)×好・悪・平(3)×浄・染(2)×過去・現在・未来(3)で108 という説、月の数(12)+二十四節気(24)+七十二候(72)で108という説、語呂合わせのような四苦八苦(4×9+8×9=108)という説など様々ですが、どれも俗説でしょう。108というのは、たくさんということです。
 鐘の数は数珠で数えます。宗派によって違いますが、天台宗の数珠には1周108個の珠が付いています。鐘を一撞きするたびにその珠を一つ動かします。1周すれば、「はい、108つ!」という
椿も寒かろう   マウスを載せれば写真が変わります
ところです。数珠には、もともとそういうツールの側面があります。
 除夜の鐘は、複数の僧侶が数珠を使って数えていますが、たまにお互いの数が合わない時があります。数珠玉を動かしたかどうか、時にはわからなくなってしまうことがあるのでしょう。その時は・・・ヒソヒソ協議です。
 鐘楼にいると、市内の各寺院の鐘の音が聞こえてきます。少し音が高いのは法然院。ゴ〜ンと地を這うような低い音は知恩院です。撞くのに時間がかかるのでしょう、真如堂が撞き終わってまだしばらく聞こえています。
 今年は過ぎ去りゆく一年を振り返って自らを省みるとともに、様々な天変地異で亡くなった方のご冥福を祈りながら、鐘を撞きたいと思っています。


       ひ  と  ひ  と  り  こ  こ  ろ  に  あ  り  て  除  夜  を  過  ぐ      桂 信子



あかい色が嬉しい紅梅 / スミレを見つけるとほっとします   (12/30撮)マウスを載せれば写真が変わります
 読売新聞が読者アンケートによって選定した「今年の10大ニュース」によると、1位は新潟中越地震 2位 アテネ五輪メダルラッシュ 3位 プロ野球界大揺れ 50年ぶり新球団 で、以下、イチローが大リーグ年間最多安打記録更新/小泉首相再訪朝 拉致被害者家族が帰国/陸上自衛隊本隊 イラク入り/過去最多の台風上陸で被害多発/「冬のソナタ」など韓流ブーム/紀宮さま婚約内定/、相次ぐ振り込め(おれおれ)詐欺/長崎で小6女児が同級生殺害/日本でも鳥インフルエンザ確認/20年ぶり新札発行/全国各地で記録的猛暑 などと続きます。
 新聞の読者による傾向もありますし、選定時期の関係で奈良の女児誘拐殺人事件やスマトラ沖地震と津波被害などが入っていませんが、こうしてみると、実にいろいろな出来事がありました。
 「えっ、これ、今年だったのかなぁ」と自分の記憶を危ぶむこともあれば、「これはボクの中ではもっと上位だなぁ」「こんなのも入っているの…」と思うこともあります。
 ボク自身の10大ニュースをあげてみようとしまたが、大して思い浮かびません。よく言えば平穏無事、悪く言えばのんべんだらりと過ごしたということでしょうか。ただ忘れてしまっただけかも知れません。最近、「認知症」っぽいのです。
 皆さん方の中には、嬉しいことが真っ先に浮かんでくる方もあれば、悲しかったことや辛かったことがいっぱいだという方もおられるでしょう。生きていくって、いろいろありますね。
 「はげみをもって放逸を退けし人は、こころに憂いなくしてやすらぎを得る」(法句経)  来年の今日は、「今年は頑張ったなぁ。よい年だったなぁ」と言えるよう精進したいと思います。

 皆さま、今年も「苦沙彌のInternet僧坊」にお越しいただき有り難うございました。
 皆さまの来年のご多幸を祈念申し上げ、今年最後の更新とさせていただきます。また、来年のお越しをお待ち申し上げています。
 どうぞよい年をお迎え下さい。


         去  年こ  ぞ  今  年  貫  く  棒  の  如  き  も  の      高浜虚子