11/19版 


早朝の団体は、記念写真だけ撮って、次の目的地へ急ぎ足  マウスを載せれば写真が変わります
 夜来の雨も早朝にはあがりましたが、雲に覆われた空からは一筋の光も差してきません。夜までは曇りがちの天気のようです。
 週末から勤労感謝の日にかけては、今のところは晴天の予報です。きっと、今シーズン最高の人出になるでしょう。
 団体客はあらかじめ定められたコースを回られるため、お天気に関係なく、第1陣は8時過ぎからお越しになります。朝ご飯はどうされているのでしょう?
 紅葉シーズンも佳境に入ってくると、9時になる前から夕方まで境内は賑わい、普段、散策や犬の散歩に来られる方は肩身が狭そうにそそくさと通り過ぎて行かれます。犬にとっては迷惑な紅葉シーズンかも知れません。

   三重塔と紅葉/本堂から塔を臨む   マウスを載せれば写真が変わります
 紅葉ももう少し綺麗になるかと期待していましたが、今年はまだ本当に綺麗な、息を飲むような紅葉に一度も出会えていません。
 さほど広くはない境内ですが、紅葉の進み具合は、本堂の前と裏、正面参道の左と右でも、多少違っています。
 本堂の前付近の紅葉はピークを超し、楓の多くは大半の葉を落としました。もみじも紅葉していますが、色が濁っていたり、縮れていたりして、アップには絶えがたい状態です。
 本堂の裏や塔の南側の参道のもみじは、基調は緑色。まだまだこれからです。
 いち早く紅葉した本堂正面あたりのもみじに口がきけたとすれば、きっと今頃「早すぎた…」と悔やんでいることでしょう。
 来週は冷え込んでくるとか。これから12月初旬にかけての紅葉に期待しましょう。

    本堂裏のもみじはまだ青々    マウスを載せれば写真が変わります
 清水寺の夜間拝観が今日から始まりました。
 ライトアップする寺院は年々増え、東山界隈では清水寺の他に永観堂・青蓮院・将軍塚大日堂・知恩院・高台寺・圓徳院が、その他の地域では、貴船・宝泉院・圓光寺 実相院・随心院などが実施されています。
 その他にも、特別公開や特別展をしている社寺・施設がいっぱいあります。
 都大路の混雑は夜まで続き、東大路は歩いた方が早いことも珍しくありません。特に、20日〜23日は、お天気も良さそうですし、今シーズン最高の人出となって、混雑も最高潮でしょう。
 先ほど、「鞍馬寺の下りのケーブルに乗るのに1時間かかりました」という話を聞きました。金曜日の昼でさえそんな状態なのですから…。
 この季節に京都を訪れる限り、混雑から逃れることはできません。“混雑も京都の紅葉シーズンの風物詩”と諦めて、気長に観光なさってください。

夜来の雨粒を載せたもみじ葉  マウスを載せれば写真が変わります
 毎年この時期に悩まされるのが、カメラを担いだ人たちです。
 団体客も早いですが、それより早いのがカメラを担いだ人たち。朝早くから夕方暗くなるまで、“三脚の林”を作られます。
 “三脚の林”を作る人たちのマナーの悪さは相変わらず。参道の真ん中に陣取って、ファインダーの中だけに神経を集中している人、柵を乗り越えて侵入してくる人、「たき火煙草禁止」という駒札を引っこ抜く人、邪魔になるからと枝を折る人……迷惑などお構いなしのやりたい放題。
 しかも、この傍若無人の輩のほとんどは“いい歳をした”人たちで、カメラとセットで買ったと思われる重そうなズームレンズと三脚を付けておられます。
 「最近の若い者は…」とは時代を超えての語り種ですが、若い人は決してそんなことをされません。定年後や子育て後の余暇を写真で楽しむのは結構ですが、せめて公衆マナーを守ってほしいものです。
 外にいるとそういう光景が目について仕方がないので、ボクはこのシーズンは引きこもっています。
 毎年紅葉シ−ズンが終わった後、踏み荒らされて剥げた苔やテカテカに光った地面を見せられるのも辛いものです……愚痴になりました。

      吉祥院の嵯峨菊/やわらかい苔の上に落ちたドングリ    マウスを載せれば写真が変わります
 場所によっては、楓や早く色付いたもみじの枯れ葉が次第に地面を覆うようになってきました。
 落ち葉で焼き芋をするにはまだ早すぎますが、毎朝、落ち葉を掃くたびにその日が近づいてきているのを実感して、ワクワクしてきます。
 人のあまり通らない“秘密”の道には、ドングリがいっぱい落ちてくるようになりました。ドングリを避けては通れないため、しかたなく踏んでしまうと、鈍い音を立てて割れたり、地面にめり込んだりします。
 境内では錦秋の世界がまだこれから広がっていきますが、ドングリを踏みしめて歩く初冬らしい世界も静かに広がっています。
 そういえば、今年はまだ初霜を経験していません。平年では15日なのですが…。霜が降りて、息が一層白く見えるようになれば、紅葉も冴えてくるでしょう。
 もみじの葉が落ちてしまわないうちに、そんな日が来てくれますように。
 23日は「一葉忌」。まだ見たことがありません、新5000円札。


       夕   映   に   何   の   水   輪   や   冬   紅   葉      渡辺水巴




付  録

 さて、今週末から勤労感謝の日に掛けて、紅葉狩りの人がピークに達する頃です。
 真如堂にもたくさんの人がお越しになりますが、哲学の道方面からお越しになったり、これからそちらに向かわれる方も多いのではないでしょうか。
 どこへ行っても人だらけですが、先に真如堂へお越しになって、その後に永観堂や哲学の道へ向かわれる方に、比較的人の少ない道を「今日の散歩道」の付録としてお教えしましょう。

 本堂の右脇の石畳を奥に進むと、道が四方に分かれます。その斜め右に延びる道を選んで進むと、すぐに左側に土塀が見えてきます。
 この土塀の中は三井家の「新墓」で、明治以降に亡くなった三井6家の方々が葬られています。右側の土手の向こうには、江戸で越後屋呉服店を開くなど斬新な商法で莫大な財を成し、現在の三井系企業の基礎を築いた三井八郎兵衛高利氏(1662-1694)らの墓石が並んでいます。
 また、蕉門十哲の一人、向井去来や春日局の父 齋藤利三、絵師 海北友松などの墓所もあります。
 この辺りの道には、たくさんの団栗が落ちていますので、童心にかえって拾われてはいかがですか?

 少し進んで階段を2、3段上ると、右手から舗装された道が延びてきます。この道が、真如堂とお隣の黒谷・金戒光明寺の境界です。
 目を左手の方に転じると東山が見え、「大文字」の一部がかいま見られます。送り火の日には、送り火を拝する数十人の方がこの場所に来られます。右の墓地の中からは、京都市街が見え、西山に「左大文字」も見えます。
 真っ直ぐ、石の柵とお寺の塀の間を進むと、「會津藩殉難者墓地」の石碑が建っているのに気付かれるでしょう。
 幕末、京都守護職であった会津藩主松平容保の本陣が、ここ黒谷・金戒光明寺にありました。その縁で、明治維新で賊軍となった会津藩士の墓地が黒谷に設けられ、蛤御門の変や鳥羽伏見の戦などでなくなった藩士など250余名の神式の墓碑があります。

 突き当たって、右に曲がるとお寺の小さな門が見えます。黒谷の塔頭西雲院、通称「紫雲石」さんです。春の牡丹、夏の蓮などを楽しませてくださるお寺です。
 中に入って左側に、小さなお堂が建っています。お堂の向こう側の入り口から中を覗くと、半畳ほどの大きな石が床にあり、正面に法然上人の像がまつってあります。
 法然上人は比叡山を下りて真如堂に詣でた後、この石に腰をかけて、お念仏を称えられると、にわかに紫雲がたなびき、光が満ちたといいます。法然上人は、この地を念仏の道場と定め、「白河の禅房(金戒光明寺)」を結ばれました。その石が、お堂の中のまつられている「紫雲石」です。
 法然上人は、比叡山の黒谷青竜寺とここを往来して説法の道場とされたので、この地は「新黒谷」と呼ばれていましたが、そのうち「新」が取れ、「黒谷」と呼ばれるようになりました。

 さて、先ほどくぐった門を出て、右手を見回してみて下さい。塔の先の方が見えていると思います。それを目がけて墓地の中を進んで下さい。
 この三重塔、黒谷の「文殊塔」です。一層目には運慶作と伝えられる文殊菩薩がまつられています。毎月18日にだけ扉が開けられますが、狭い塔の中にようやく収まっていると思えるような、実に迫力のある文殊さんで、奈良桜井の安倍文殊院、京都天橋立切戸の文殊(智恩寺)と共に、日本三文殊の一つに数えられています。
 18日のご開扉にあわせて、この文殊さんをお参りに来られるだけの価値が充分あると思います。
 ウェスティン都ホテルのロビーなどに、この塔が真如堂の塔であるように説明されていますが、それは間違い。真如堂の塔は、低い位置に建っていて、西側からでないと見えません。

 ここでちょっと寄り道をして、塔の裏側に右側から回ってみて下さい。玉垣に囲まれた塚があり、「清和天皇火葬塚」という宮内庁の看板が見えてくるでしょう。さらに15メートルほど進んだ左側の1段高くなったところに、「八橋検校霊前」と彫った石灯籠のある墓石が見えてくるでしょう。
 このお墓は、近世筝曲の開祖と呼ばれる「八橋検校」のもので、皆さんがよくご存じの京銘菓「八ツ橋」は、この検校に由来しています。
 「八ツ橋」というと、最近では中に餡の入ったものが主流ですが、ほんの少し前までは焼いたものが主で、街を歩いていると八ツ橋を焼く匂いが漂ってきました。
 物を大切にする検校は、米びつを洗う時に残る米のことがいつも気になっていて、ある朝、世話になっている茶店の主人に、小米、砕米などに、蜜と桂皮末を加えて堅焼煎餅を作るといいと教えたそうです。これが京の堅焼煎餅の起こりと伝えられ、検校の名前に因んで「八ツ橋」と呼ばれるようになったようです。

 さて、再び文殊塔の正面に戻って、塔と反対側を見渡してみて下さい。京都市内が一望できます。左の方には遠くJR京都駅も見えます。近くには知恩院や平安神宮、京大病院、御所などが見えますし、正面の遠くの方には愛宕山なども見えます。西山の山間の亀岡と思えるあたりは、朝、よく霧に覆われています。なかなかの絶景ですよ。
 長い階段を降りていきましょう。新旧様々なたくさんの墓石が並んでいます。黒谷の墓地は、東大谷・西大谷と共に「京都三大墓地」といわれるほど大規模で、熊谷直実、平敦盛、春日局、竹内栖鳳、中村鴈治郎など、有名人のお墓も実にたくさんあります。
 お墓は気味が悪いと思われる方もおられるでしょうが、ボクは毎朝この道を逆方向に歩きながら、いろいろな墓を見て歩くのが大好きです。実にゆったりした時間が流れているとお感じになるのではないでしょうか。

 階段を降りきったところの工事中の池の右をさらに進み、右手の石畳の坂を登ると、本堂や「熊谷直実 鎧掛けの松」などがあります。時間があれば、グルッと一回りされてはいかがでしょう。
 階段を降りきったところを左へ曲がり、塔頭などの間を進むと、黒谷の南門があります。さらに進んで、鬱そうとした落ち葉が積もった道を進むと、左側に岡崎神社の玉垣が、右側に本願寺岡崎別院のブロック塀が続き、やがて丸太町通へ出ます。先ほどの墓地の中の静寂は嘘のように思えるでしょう。
 丸太町通を左に折れ、天王町の交差点を越え、ゆるやかな坂を登っていくと、「泉屋博古館」の入り口が見えます。右へ折れると永観堂へ、道を探してさらに上がっていくと哲学の道に出ます。このあたりまで来ると、すっかり観光地です。

 お寺にお越しになる多くの方を見ていて思うのは、表側だけはご覧になるけれど、本当に趣のある“裏”は素通りされたり、次の目的地に行く時間のことを気にされてか、そそくさと帰られる方が多いということです。
 今日ご紹介したコースを、ボクはほぼ毎日逆回りで歩いています。四季折々、あるいは天気によって様々な顔を見せてくれる散歩道です。表通りとはまた違った発見が、きっとあります。
 京都通の皆さん、ぜひ一度歩いてみて下さい。

付録ページの写真は、11/18に撮影したものです。