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最高に美しい朝の「花の木」  マウスを載せれば写真が変わります
 11月に入って、紅葉シーズンもいよいよ幕開け。大きな高気圧に覆われて、しばらくは晴天のあたたかい日が続くという予報。今週末あたりも、多くの人が紅葉の名所にお出かけになるでしょう。
 境内を訪れる人の数も、10月終わりの週末頃から増えだし、団体客の来訪も始まりました。
 つい先日まで、拝観者が1桁あるいは10数名だったのに、紅葉便りに煽られた方が動き出されたのか急に増え、今日は100人を越えたそうです。
 「紅葉にはまだ早いですよぉ」と先日から言い続けているボクにしたら、せっかくなのですから紅葉が一番綺麗な時にお越しいただきたいのですが、JR東海のCMなどをご覧になったら「京都はもう真っ赤!」とお思いになるのかお越しになってしまい、「アラ、テレビのほうが綺麗ねぇ〜」などとおっしゃっています。CMの映像は去年の盛りの頃のものでしょうに。
 もみじは少し色づき始めた程度。それだけは申し訳ないだけなのですが、救いは「花の木」。毎日見ているボクからすると、木全体の緑・黄・赤のバランスが一番綺麗だったのは文化の日頃でしょうか。今は、緑の葉がほとんど消え、黄色と赤2色のグラデーションに変わりつつあります。
   青・黄・赤の葉のグラデーションが見事!    マウスを載せれば写真が変わります

 ピークは過ぎたかも知れませんが、まだまだ綺麗です!
 「花の木」が一番綺麗に見える時間は、朝9時〜11時頃でしょうか。太陽が木の真上に来る頃には、光線の角度のためか、美しさが少し減ってしまうような気がします。夕焼けの頃は、日の沈む方角が今の時期はベストではないので、朝ほど綺麗ではありません。
 木の回りを360度回ってみると、一際赤くなっている枝はほとんどが東側にあります。朝のうちが一番綺麗に見えるのは、そういう事情もあるのでしょう。
 まだ11月初め。こんなに早くピークを過ぎてしまっては困るのですが、早くお越しになった方へのせめてものプレゼントです。
 この「花の木」、実は境内には2本あります。1本はこの木ですが、もう1本は本堂の左前すぐにあります。でも、こちらはまだ緑一色で、もう少し日が経っても大して綺麗にはなりません。日当たりなどが違うからでしょうか。
    夕陽の中の「花の木」    マウスを載せれば写真が変わります
 「花の木」は、昭和天皇御大典記念に木曽福島で買い求められて京都植物園に植えられたうちの1本です。大正4年、京都植物園を作るために尽力された三井家は返礼としてこの木を譲り受けられ、昭和4年、それを真如堂に寄進されました。
 「花の木」は滋賀、岐阜、長野、愛知のごく狭い範囲に自生していて、4県、10ヶ所で国の天然記念物に指定されています。全国でも5百株ほどしかありません。
 春早く、葉が出るのに先立って直径2〜3ミリの真紅な花を咲かせるところからその名が付いたようです。
 このページをご覧になってすぐにお越しになったら、まだまだ綺麗な「花の木」が見られますよ。
 先ずは、「花の木」尽くしでした。


        色   付   や   豆   腐   に   落   て   薄   紅   葉      松尾芭蕉


      もみじの葉もまだまだ基調は緑        マウスを載せれば写真が変わります
 今年の紅葉は、その良し悪しを予想するのがとても難しく感じられます。
 「花の木」の様子を見ていると、少し紅葉の訪れが早いような気がしますし、もみじも、かなり赤くなってきている木があります。
 「異常気象のために今年の紅葉の見頃は早まりそうです」という情報も流れています。京都でも今年は真夏日が平年を大きく上回り、10月の降水量が平年の2倍以上など、確かに異常気象でした。
 一方、今夕のテレビでは、「今年の近畿の紅葉は平年より遅く、見頃は11月中旬から12月初旬」だと伝えていました。「どっちやねん! はっきりせい!」と、突っ込みたいところです。
 現時点での大胆かつ無責任な《苦沙彌の紅葉予想》では、今年の紅葉は「例年より少し早く、ピークは20日頃。全体的にあまりよくないでしょう」といったところです。
      吉祥院の菊     マウスを載せれば写真が変わります
これからしばらく穏やかな日が続くということですが、ここまで来たらあまり影響はないように思えるのですが…さていかに。
 くれぐれも、最終的には「自己責任」でお越し下さいね。
 吉祥院の門内でも、恒例の菊花展が始まりました。
 先週書かせていただいたように、菊の出来は決してよくありません。「あー、こんな程度か」と帰って行かれる方もあれば、とても喜んでくださる方もおられます。
 真如堂のオススメできる点は、境内を散策するのも、吉祥院の菊をご覧になるのも、ご自由にどうぞというところでしょう。境内の入り口でお金を頂戴したりはしません。まぁ、入り口が多いので頂きにくいという事情もありますが…。
 寺の境内や堂塔は、流行の言葉でいえば、“癒し”空間。その空間に身を置くだけで、なぜかわからないけれど、すごく落ち着く、気持がスゥッーとしたというのが一つの理想だろうと思います。そこに仏の空気が流れているからこそ、黙していても癒されるのではないでしょうか。それこそ‘寺’の真骨頂です。
      思い思いに過ごせる境内は最高!        マウスを載せれば写真が変わります

 一昨年、JR東海の「そうだ京都、行こう。」で取り上げていただいた時は、例年の20倍という圧倒的に多くの方が真如堂にお越しになりました。去年は10倍。今年は5倍ほどに落ち着いてくるでしょうか。だんだんもとの真如堂に戻りつつあります。
 錦秋の境内でゆっくり過ごしていただきたい。そして、普段のいろいろな‘思い’を置いて帰っていただきたい…そう願っています。
 紅葉が終わった頃に、皆さんの置いて帰られた‘思い’を落ち葉と一緒に燃やして差し上げましょう。


           づ  れ  る  木  に  タ  ー  ザ  ン  の  忘  れ  綱       服部たか子



「十夜法要」のために立てられた柱と「縁の綱」。綱の先は阿弥陀さまの御手  マウスを載せれば写真が変わります
 今日5日から、「十日じゅうにち十夜別時念仏会じゅうやべつじねんぶつえ」、「お十夜おじゅうや」始まりました。薄暗くなった夕方5時より開闢かいびゃく法要がいとなまれ、ご本尊のお厨子の扉が開けられました。
 お十夜は、今から550年程前、足利義教公の執権職をしていた伊勢守貞経の弟 平貞国が世の無常を感じ、出家して仏道に生きようと、真如堂に籠もって念仏の行をされたことに始まります。
 3日3夜のお勤めが済んだら髪を落として出家しようと決意していた3日目の明け方、貞国の夢枕にお坊さんが現れて、「阿弥陀さまを信じる気持が本当なら、出家するしないは関係ないではないか。出家するのは待ちなさい」とお告げをされました。貞国が出家を思いとどまって家に帰ってみると、兄は上意に背き吉野に謹慎処分。代わりに貞国が家督を継ぐようにという命令が下っていました。
 貞国は、「兄は謹慎だし、自分も出家をしていたら家督を継ぐ者がいなくなって、執権職を受けるどころか、家も断絶していただろう。これは阿弥陀さまのお陰だ」と感激し、
去来「すゞしさの野山にみつる念佛哉」句碑前のツワブキの花 / 蕎麦の実  マウスを載せれば写真が変わります
あと7日7夜、合計10日10夜の念仏をしました。これが「お十夜」の始まりです。後に鎌倉の光明寺に伝えられ、全国の浄土宗のお寺にも広まりました。
 本堂の中では、「かねこう」の人たちが念仏を称えながら打つ、音階の違う8つの鉦の音が鳴り響きます。
 この鉦の音が境内に響き渡るのを聞くと、「あー、今年ももうお十夜かぁ。今年ももうわずかだなぁ」としみじみ思います。
 また、この鉦の音の中でご本尊のお姿を拝する瞬間は、ボクにとってはウルウル来るほどの法悦の時です。
 真如堂の秋は、紅葉だけではなく、念仏の秋なのです。
 15日2時からは結願大法要も厳修されます。また、その日、法要の時間以外には、ご本尊と1メートルほどの至近距離からご参拝いただけます。“タレコ止め”の粥の接待もあります。
 少し早い紅葉を、まだ人もさほど多くない穏やかなお天気の中で、存分にお楽しみ下さい。7日は立冬です。
 写真を撮りすぎて、いっぱい使ってしまいました。重たくなってすみません。


        行  く  秋  や  軽  き  も  の  買  ふ  旅  土  産       高橋淡路女