7/30版 



本堂前に菩提樹の葉に残った蝉殻
 朝から、晴れていたかと思ったら急に時雨たり、ひと雨来るかと思っていたら急にカァーッと強い陽射しが差してきたりと、天気がめまぐるしく変わっています。
 気温は12時ですでに35度。今日も36〜37度ぐらいまで上がるでしょうが、風があるので、日陰にいるとまだ過ごしやすく感じます。
 今月の京都は、たった1日を除いて毎日が真夏日(最高気温30度以上)。熱中症で救急車に搬送された人は100人近くに達し、1カ月の患者数としては過去最多だったそうです。
 そんな中の台風10号。被害が出ない程度に、少しは涼しくして! 雨を降らせて! と期待するのですが、焦れったいほど足が遅いですね。京都に影響が出てくるのは、明日のようです。
 こんなに雨が待ち遠しい年も珍しいでしょう。境内のもみじには、枝先の葉が色づくなど、小雨の影響が出始めています。


百日紅と塔  3週連続ですが、すべて違う木です
 やはり、境内にはほとんど人影がありません。うろうろしている人影は、職員の中の屈強な人、石屋さんなど。
 たまに観光らしき人がタクシーで来ますが、車窓から眺めただけで帰っていったり。今日の拝観者数は、1桁ではないでしょうか。

 小学校4年生ぐらいの少年が、紙箱を持って境内にやってきました。何をするのかそれとなく見ていると、藤棚の下にその箱を置き、メジャーを取りだして、何やらあちこち計っています。
 きっと夏休みの宿題に違いないと思って尋ねてみると、藤棚についた蝉殻の高さを測り、それをまとめて宿題とするのだとか。箱には蝉殻が横一列に並べてありました。毎日この作業を続けるらしいのですが、大変なことです。
 蝉殻は、地面から10センチほどの低いところにあるものもあれば、2メートルほどの高さにあったりもします。ニイニイ蝉の殻よりアブラ蝉の殻のほうが高いところにあるように思いますが、蝉が地中から這い出して来てよじ登ろうとした木の形によって、自ずとその高さに制限ができるでしょう。
 どういう結果予測のもとに、この少年の研究は進められているのでしょう? ボクには何か統計的な結果が出るようには思えなかったのですが……彼の目は真剣でした。

青空に向かって咲く藤の花
 一緒になって蝉殻を探していたら、時ならぬ藤の花を見つけました。
 途端に結果の見えない彼の研究に興味が失せ、他にも藤の花が咲いていないかと探して回り、ようよう咲いている1房と、蕾の1房を見つけました。
 夏の青空に立ち向かうにはひ弱な藤の花ですが、百日紅と木槿しかない境内では、とても新鮮で清々しい花に見えました。

 彼は蝉殻を、ボクは藤の花を求めて藤棚の回りを1周してもとに戻ったその時、1羽の烏が、ボクたちの目前で蝉をくわえて飛び去っていきました。
 少年はいのちのはかなさや世の無常を感じたのでしょうか? 何も言わず、蝉殻の並んだ紙箱を、体の前で大事そうに抱え、本堂前の白砂を横切って帰っていきました。


      な  に  も  か  も  遠  き  思  ひ  の  素  足  か  な      結城昌治


     韓国の国花でもある木槿  /  涼しげな手水
 暦を見ると、今日は「中伏」。「中伏」って?
 夏至後の3度目の庚の日(今年は7/20)を「初伏」、4度目の庚の日(同7/30)を「中伏」、立秋後の最初の庚の日(同8/9)を「末伏」といい、これらをあわせて「三伏」と呼ぶ。1年中でもっとも暑い日。
 手紙の時候の挨拶に、「三伏の候」「三伏の猛暑」などと酷暑の候をあらわす言葉として用いられるとのこと。
 種まき・療養・旅行・婚姻など、すべてを慎むべき日、大凶の日なのだそうです。
 なるほど。今年の場合は、7月20日から8月9日までが最も暑い日ということですね。素直に実感できます。
 まぁ、こんな暑い時に種を蒔いても枯れてしまいますし、よほどの必要がない限り旅行をする気にもなりません。結婚式などしたら、参列者は式場に着くまでに倒れてしまうでしょう。
 三伏の時期を選んだかのように、盛夏に次から次へと花を咲かせる木槿むくげ。一瞬ながら、暑いことを忘れさせてくれるようなその花の姿。路地で見ると、炎暑がよく似合うと思いますが、切って花瓶に挿すと、一転して涼やかな雰囲気をその空間に漂わせるのも不思議です。
 『冬のソナタ』に夢中になっておられる方、木槿の1輪を髪に挿してみられてはいかがですか? ユジンのように美しくなれるかも……気が触れたと思われるかも知れませんが。

     栴檀葉の菩提樹(モクゲンジ)   マウスを載せれば写真が変わります
 6月に黄色い花を咲かせた自坊の栴檀葉の菩提樹(モクゲンジ)は、小さなほおずきのような実を房状に付けています。
 ほおずきのような実の中の種が黒く熟して落ちてくるのは晩秋ですが、数日前から、まだ青い実が落ちてきています。実の数を調整しているのかも知れません。
 実の中の種は、艶々した緑の光沢が綺麗です。
 突然ですが、ほおずきといえばお盆。ほおずきの実を飾って、お盆の精霊迎えの赤い提灯やお灯明の代わりにするという習慣が、京都でもあります。これからは、花屋さんの店頭などでもその姿を見かけるようになるでしょう。
 自坊では、8月に入ると、遠方の家から棚経に伺い始め、15日までに約240軒のお宅を回ります。いよいよカウントダウンです。
 とにかく、少しでも涼しくなって下さい! 更新をしている間に、今日の京都の最高気温は37.3度と発表されました。


   水  打  て  ば  青  鬼  灯あおほおずき  の  袋  に  も  滴  り  ぬ  ら  む  黄  昏  に  け  り     長塚 節