4/9版 



桜と新緑
 日によって寒暖の差が大きい毎日です。
 右も左も桜一色だった景色が、今日は「新緑のほうが勝っているかな?」という情景に様変わり。残っている桜にも、もう勢いが感じられなくなってきました。
 咲き出してから約2週間あまり、桜の下での宴、夜桜見物、写真撮影など、ずいぶん楽しませてもらいました。
 平安神宮の紅しだれ桜は今が見頃、仁和寺の御室桜は来週末頃が見頃と、桜の種類によってはまだまだ楽しめます。
 境内の鐘楼の回りにも数本の八重桜があり、あと1週間ほどすれば咲き出してきます。ピンク色の豪華な花で、鐘楼に石段を登ると足下から頭の上までその花に包まれ、とてもリッチで幸せな感じがします。


風に舞う桜の花びら 左は染井吉野、右は山桜
 落ち葉は掃除をしなくてはなりませんが、桜の花びらは放って置いても自然に消えていくメンテナンス・フリーな代物です。
 風が吹くたびに空には花びらが舞い、昨日通りがかった白川や疏水は、花びら模様が変化しながら澱んでは流れていました。
 「舞い降りてくる桜の花びらを捕まえると願いごとが叶う」。そんな言い伝えがありましたでしょうか?
 これが案外難しく、「花びらが舞ってきた!」と勢いよく走っていくと、自分の起こした風で花びらが遠ざかっていってしまいます。
 子供なら身も軽いですが、中高年は花びらの動きにあわせて、ヒラヒラとは動けません。夢中になってアキレス腱でも切ったら大騒動。
 でも、桜吹雪の中に身を置くのも、これまたリッチで幸せ。髪の毛に花びらが1枚、2枚、留まったり…ボクの頭は滑るので留まりませんが。


モミジの新緑と赤い花
 今の季節に継ぎ目はありません。
 桜、新緑、ツツジ、藤などと、次々と目に鮮やかな光景が展開し続けます。
 「世の中は三日みぬまの桜かな」という諺がありますが、春の光景は1日経つだけでもう変わっています。
 ほとんどのモミジが柔らかく緑浅い葉を広げ、赤い小さな花を咲かせ始めました。
 風に揺らぐモミジの枝が止まるのを待っていたら、通りがかりの初老の男性から「何を撮っておられるのですか?」と不思議そうに尋ねられました。桜を撮るでもなく、建物を撮るでもなし。トレーナーにサンダル姿で、モミジの若葉の前に立ちつくしているのが奇妙に見えたのでしょうか?
 「モミジの花ですよ? ほら、この小さな赤いのが花ですよ」

シャガの花。後ろの山は大文字山
『へぇ〜、これが花ですか! 実はクルクルと落ちてきますが、花は知りませんでした』「風で動くのでなかなか撮れないのですよ」『ホントですね、小さいものだから…あ、また吹いてきた…』と言葉を交わし、トイレから戻ってこられた女性とその場を去っていかれました。
 トイレ待つ間の暇つぶし? 本当に興味があったのかな?
 また、昨日は衣の下に着る白い着物姿で写真を撮っていたら、「スミマセン、この花ダイコンを1本いただけませんか? スケッチしたいので」という、やはり初老の女性がおられました。
 そこで、ボクはおもむろに「これは“諸喝采”とも呼ぶのですよ」と言うと、『諸喝孔明と関係あるのですか?』と聞いてこられたので、「そうです、諸喝孔明が遠征先で、部下の栄養不足を補うために必ずこの種を持ち歩いたと言われているそうです。種を蒔いてから成長するまでに時間がかからないですから」と、知識を小出しにしました。
 他の季節には話しかけてくる人はあまり多くありませんが、春は人の心を解きほぐすのでしょうか。桜や新緑に触れて、みんな心が柔らかくなっておられるのでしょうか、モミジの幼葉のように。


風に揺れる山吹
 桜ばかりを見ていると、山吹のような花を見た時、ホッとします。
 桜も山吹もバラ科。
 しなやか枝が風に揺れる様子から「山振」と呼ばれ、それが転訛して「山吹」となったとか。モミジ以上に写真が撮りにくかったです。
 山吹といえば、江戸城を築いた太田道灌おおたどうかん
 若い頃の道灌は、武勇の名声は高かったものの、学問や風流を解せず、ただ野山をかけては狩猟を楽しんでいたそうです。
 ある日、鷹狩りの途中でにわか雨にあった道灌、一軒のあばら屋に駆け込み、その家の娘にみのを貸してくれるように頼みました。すると、その娘は山吹の一枝をとってきて差し出したので、道灌は「蓑を貸して欲しいと頼んでいるに」と怒って雨の中を帰って行ってしまいました。
 帰ってから近臣にこのことを話すと、その中の一人が「後拾遺集の兼明親王の歌に『七重八重花は咲けども山吹の みのひとつだになきぞはかなしき』という歌があります。娘は蓑ひとつないということを山吹に譬えたのでしょうか」と言いました。
 これを聞いた道灌は自分の浅学を恥じ、その日から歌道に精進したと。
 蓑がないことを、即座に山吹で暗示して返すとは、大した娘です。教養があり、肝っ玉が座っていたのでしょう。洒落もこのように知性溢れるものでないといけません。「師匠」と呼びたいぐらいです。


別称 タバコ草
 桜、椿、山吹、馬酔木、シャガなど、目立つ花だけでも一杯咲いている境内ですが、更新ネタの乏しかった時のように、下を向いて歩けば、それはそれでまたいろいろな小さい花が咲いています。
 カラスノエンドウ、オオイヌノフグリ、ヒメウズ、ハコベ、タンポポ、スミレ……昔はもっともっといろいろな花が咲いていましたが、掃除が行き届くようになって、野の花の種類は減りました。
 この草、皆さんもご覧になったことがおありでしょう?
 子供の頃は「タバコ草」と呼んで、よくくわえたりしました。先のところが刻みタバコに似ていたからでしょうか?
 本当の名前は「スズメノヤリ」。先に付いているのは花の集まりだそうで、大名行列の毛槍に似ていることが名前の由来だそうです。「スズメ」というのは、小さい植物に付いていることが多い枕詞のようなものです。
 先ほどの山吹もそうですが、植物の名前の由来を調べると、実に楽しくなってきます。でも、現代人には昔の人ほど含蓄のある名前を付けることはできないような気がします。

 ここ数日、入学式らしき親子連れを見かけます。桜も何とか入学式まで頑張ってくれたようですね。
 気候が不順です。風邪をひかれませんように。