飛騨 〜 桜の魂に逢いたくて


    飛  騨  路  へ 

 定例の「今日の散歩道」の更新を必死で終え、飛騨へ。夜の10時過ぎに高山に着く列車の予約はしてあるものの、出来れば早めに行って、高山の夜を楽しみたい…自ずから気が急きます。

 京都駅行のバスは遅々として進まず、途中でタクシーに乗り換えて駅には着いたのに、今度は構内がいっぱいでタクシーから降ろしてもらえない。
 改札口へ走り、電光掲示板を見ると、すでにひかりの発車時刻。ひかりしか乗れない切符なので、これに乗らないと40分待ち。ダッシュしてホームへ。新幹線のドアはまだ開いていたものの、「黄色い線までお下がり下さい! 駆け込み乗車はおやめ下さい!」の絶叫に気勢をそがれ、結局乗り損なってしまいました。
 次のひかりは米原、岐阜羽島と各駅停車で、「のぞみ」待ち。名古屋に着いたのが、ワイドビュー飛騨号出発の3分前。チケットを変更しなければならないのに、窓口には長蛇の列が…。「あー、ダメだぁー」。
 今回の旅は、出だしから何だかつまずきっぱなし。後はどうなることやら。
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名古屋駅高山本線ホームのきしめん
 次の列車まで約1時間。気分を切り換えて、きしめんを食べることにしました。
 駅の構内をウロウロしたけれど、きしめん屋が見つかりません。「ひょっとして高山本線のホームにあるかも」と一か八か改札を入って行ってみると、ありました、立ち食いきしめん。
 麺は冷凍ながら、ツヤと腰があってなかなか美味しい。素のきしめんで340円だったかな。汗を拭き拭き一気に食べ、出発からの不運も少しリベンジできた気分になりました。

 飛騨号は空席だらけ。これだったら、前の列車の自由席でも座れたかも知れません。高山の春の祭りが昨日・一昨日と催され、今日は一段落といったところなのかも知れません。
 岐阜、美濃あたりの沿線の桜はもうすっかり葉桜。飛騨の桜が気になります。

 今回の旅は、飛騨の臥龍桜や荘川桜、そして水芭蕉や座禅草に出会うのがテーマ。染井吉野のように易々と大きくなる桜と違い、何百年という時代を生き抜いて生きた桜の“魂”に会いたい。そんな旅を思いついたのでした。
 「目で見たようには写真に撮れないから」と、いつもは簡単なカメラしか旅行に持っていかないのに、今回は写真を使った旅日記を書こうかなぁと、ホームページの更新に使うそれなりのカメラを持参しました。そんな、ちょっと意気込んだ旅でもあります。

 名古屋駅のデパ地下で買ったエビ天入り天むすを食べているうちに、列車は下呂を過ぎ
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車窓から見た臥龍桜
、次第に飛騨に近づいてきました。線路際や山々には桜の花が健在。しかも、進むに従って、花と葉の混在から散りかけへ、そして満開へと時間を逆行していきます。そんな桜の変化に、期待が持てそうです。

 そろそろ高山という時、「まもなく左手に樹齢1千年の『臥龍桜』が見えてまいります」という車内放送。と同時に、列車は少しスピードを落としました。
 枝を広げた堂々とした桜。「これだぁ…これを見に来たんだ!」と鳥肌が立つような思いがしました。
  高 山 Sightseeing 

 6時半頃、高山について、ホテルにチェックイン。
 ノートパソコンを取り出して、スイッチをいれたものの、WINDOWSのロゴが出た段階でストップ。何回やっても同じ症状で、PCに耳を近づけると、繰り返しハードディスクにアクセスを試みながら滑っているような音がしています。
 知人から譲り受けた7年落ちのこのノートPCも寿命なのかなぁ…それにしても、ネットにアクセスできないと困ってしまうなぁ。高山には、ネットカフェもほとんどないし…。

 今日は出かけからついてなかったですが、こういう時は追い打ちを掛けるように、何かが起きるのが常。どうも、靴が変なのです。よく見ると、靴底の土踏まずから前が剥がれ、ペコペコしているではありませんか! ちょっと古くなったイタリア製のトレッキング・シューズ…こりゃぁーダメだぁ。でも、靴はこれしかありません。
 以前、尾瀬に行った時、同行した人の靴が同じような状態になって、その時はボクが予備に持っていた靴紐で底を縛って歩いたことがありました。今回は靴紐はなし。
 仕方なしに、天むすの弁当箱に使ってあった太めの輪ゴムを使って、靴底がペコペコしないように修理しました。幸いトレッキング・シューズは靴底の切り込みが深く、その引っ込んだ部分に輪ゴムが来るようにしておけば、地面と擦れて切れる心配もありません。
 応急処置完了! いざ、夜の高山へ。

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中橋と桜と柳
 まずは、陣屋前の中橋のライトアップへ。
 高山には今までに10回以上訪れたことがあり、最近では今年の1月、厳寒の時に来ました。その時には、「中橋のライトアップは大したことはないから、行っても仕方ないですよ」と居酒屋さんで聞き、寒いこともあって行こうという気にもなりませんでしたが、今度は違うはず。きっと桜が咲いているはず……。
 中橋の一つ川下の筏橋に立ち、ライトアップされた朱色の中橋を遠望! 桜も満開。柳は緑、橋は紅。川面はキラキラ。わぁー、綺麗だぁ。
 川の測道を中橋へ。そんなに桜が多いわけではありませんし、ライトも疎らですが、花と川と新緑の取り合わせが何ともいえません。
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中橋脇の燈籠と桜・新緑

 人はさほど多くありませんが、外国人の団体を乗せたバスが時折行き来し、橋の上では英語が飛び交っていました。
 昼過ぎまでいた京都の光景とはずいぶん違う気がして、あー、旅に出たのだなぁと、しみじみ思いました。
  高 山 の 夜  第 1 夜 

 さて、Sightseeing はここまで。次なるは、舌で楽しむ高山の夜。

 地方都市に行くと、「○○銀座」「一番街」などという、その街で一番賑やかあろうと思われるネーミングの商店街を見かけます。
 高山では国分寺通がそれにあたるのでしょうが、国分寺通は地元向けというより、観光客向けのお店がほとんど。町を歩いていても、大きいスーパーなど、地元の方が買い物をするような場所をいまだかつて見たことがありません。
 これも、今年1月の居酒屋で聞いた話ですが、観光地と駅を挟んだ反対側にそういうお店があるとか。デパ地下フェチのボクとしては、地元の人が買う食材の売り場をぜひとも見たいものです。

 高山の飲み屋さん街、盛り場はどこなのでしょう? 朝日町一番街のあたりかな。多少の居酒屋、スナック、パブなどが並んでいます。その界隈をウロウロ、といっても100メートル四方ほどの一角。
 「ほう葉味噌」とか「飛騨牛」という看板が上がっているのは、いかにも観光客向け、一見さん向けのようで、端から行く気がしません。店の中を覗いて、人気のまったくない店や活気に溢れていても若い人ばかりのお店は敬遠。
 ガイドブックやネットであらかじめ見当はつけていたのですが、やはりその店の前に行ってみると、「こりゃダメだ」というお店も多々。

 そんな中、一番街角の「甚六」というお店が、ボクの嗅覚をくすぐりました。下調べでは選外だったお店ですが、「山菜」という地味な看板に惹かれます。今は、飛騨も芽吹き時。山菜も美味しかろう…。
 カウンター7〜8席と小上がり2テーブルのこぢんまりしたお店。カウンターは地元の仕事仲間らしき中年男女5人が座っていて、ボクと入れ違いに出て行った客のいた小上がりが空いたばかり。ご主人とその奥さんらしい人の2人で切り盛りされているようでした。
 さっそく、おかみさんにあずき菜と野菜の天ぷら、ホタルイカと熱燗を注文。それをおかみさんがご主人に取り次ぐと、「あずき菜? 山菜の盛り合わせのほうが得」とぶっきらぼうにアドバイスされ、仰せの通りに。
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甚六の山菜盛り合わせ
 真っ先に山菜の盛り合わせが出てきましたが、お酒がなかなか出てきません。お酒を呑まずに食べるのは勿体ないので、つき出しを突きながら地元の人の話にそれとなく耳を傾けていると、どうやら税理士事務所の人たちと顧客のようでした。

 ようやく熱燗登場。さて、山菜をいただこう。ん〜、実に美味しい!
 アマゴ、蕗の薹、筍、あずき菜、うど、わらび、もう一品は何だろう? 生海苔のような食感ながら、ぜんぜん味が違います。おかみさんに聞くと「岩茸」だとかで、地元の人が採ってきてくれたそうです。
 「山菜」と看板があがっていても、水煮ばかりを使っていたりと、名ばかりの店もあります。でも、この店は違います。それに、そのうちご主人がお客がいるカウンターの端に陣取って、仕込みのために山菜の下処理を始めましたから、間違いありません。
 後で調べてわかったことですが、「甚六」は常連客も多く、著名人も数多く来店するとか。煮物や漬物などもオリジナルで、すべて手作り。素材にこだわり、利益を度外視した値段で提供してくれる店ということでした。
 また、岩茸は標高800メートル以上の高所の石英粗面岩や硅岩など岩壁の垂直面に張り付くように生え、手のひらの大きさになるのに20〜30年かかるといわれて、その収穫量の少なさと困難さゆえに、「神秘のキノコ」「仙人の食べ物」などといわれるそうです。
 口上がばかりで、もったいを付ける割には内容のないお店が多い中、気取らず、ごく当たり前のように美味しいものを出してくれる「甚六」に出会えて感激しました。
 家を出て以来御難続きだった今回の旅も、完全にプラスに転換しました。

 これで帰ればよかったのですが、針が少々プラスに振れ過ぎ。何年か前に行ったことのある、大阪の人がやっている居酒屋に向かいました。どうして、高山まで来てわざわざ大阪の人がやっているに店に…関西人の血でしょうか、気楽な店なのです。
 「山っこ」。手作りっぽい看板に、「活け魚は富山湾大直送!」「飛騨牛ステーキ880円」「ガイドブックるるぶでも紹介された店」に大書されて、その一角だけ違う雰囲気。四季折々の郷土料理、飛騨牛料理、飛騨の地酒が売りのようで、キャッチだけは高山っぽいのですが、至るところにベタベタの大阪を彷彿とさせる雰囲気があります。
 やはり1月に行ったちょっとオシャレな居酒屋の女性店主から、「高山の人だったら、あんなことはしない」と評されていましたが、まさにその通り! 京都でもしません。まさに大阪人です。

山っこ のご主人 同HPより
 主人は大阪から7〜8年ほど前に高山にやってきたという人。先客は、美濃のほうから転勤してきたというサラリーマン1人だけ。
 ここではまず、観光客らしくほう葉味噌を注文。ほう葉味噌というと、高山の代表的な食べ物のようですが、地元の人はほとんど食べないといいます。京都でも、京料理を日常的に食べるわけではないですから、同じでしょう。
 ご主人のおすすめの牛すじ土手煮込み。これは美味でしたが、これって思いっきり大阪。やはり、主人は大阪人が抜けきってはいません。
 主人の評を頼りに高山の地酒をあれこれ。焼酎の瓶に入っている日本酒もあり、 それ、焼酎じゃないんですかぁ!」と突っ込みを入れながら、酒と会話を堪能し、少し度を過ぎました。

 宿に戻って、コンビニで買ったゴム用ボンドで靴底を着け、椅子を載せて重みで圧着。もう一度ノートPCの電源を入れましたが、やはりダメ。
 風呂へ入ったかどうか…すっかり酩酊して、知らぬ間に寝てしまいました。
2004/4/16